第9話 音
冷房の箱の中で、
ペルは、じっと待っていた。
夜。
外気が下がり、
世界そのものが、少し冷える時間。
(……今なら……
外から……もらえる……)
凍理に、そっと意識を向ける。
《凍理:外界干渉準備》
《条件:微弱》
(微弱でいい……
ほんの少しで……)
《凍理:受理》
空気が、動いた。
箱の内側――
冷気が、ゆっくりと集まる。
だが、その瞬間。
――ピキ。
小さな音。
(……っ)
ペルは、凍りついた。
(今……
鳴った……?)
《警告:結晶応力偏差》
(やば……
割れる……?)
必死に、制御しようとする。
《凍理:自動補正》
――キィ……ン。
今度は、
はっきりとした音だった。
澄んだ、鈴のような、
だが確かに――
“氷の音”。
(……あ……)
外で、何かが止まった。
足音。
衣擦れ。
「……今の……?」
少女の声。
(聞こえた……
完全に……)
箱の蓋が、ゆっくりと開く。
淡い光。
少女は、息を潜めて、
中を覗き込む。
「……鳴った……よね……?」
(やばい……
やばいやばいやばい……)
ペルは、必死に凍理を抑える。
《凍理:抑制》
《存在安定度:低下》
(抑えすぎるな……
壊れる……)
霜が、わずかに震えた。
――チリ。
「……!」
少女は、目を見開いた。
「……今……
返事……した……?」
(返事じゃねぇ……
事故だ……)
だが。
少女は、怖がらなかった。
箱の縁に、そっと手を置く。
「……ペル……
聞こえてる……?」
(聞こえてる……
聞こえてるけど……)
声は出せない。
だが、もう――
音は出てしまった。
《凍理:不可逆変化を確認》
(……不可逆って……
そういうの……
やめろ……)
少女は、しばらく黙っていたが、
やがて、小さく笑った。
「……やっぱり……
生きてる……」
(……信じるの早ぇな……)
だが、同時に――
救われた。
少女は、蓋を閉じる前に、
小さく囁く。
「……明日……
誰かに……聞いてみる……」
(……誰か……?)
《警告:外部介入確率上昇》
(……来たな……
ここで……)
音を出した。
気づかれた。
世界が、近づいてきた。
もう、
箱の中だけでは済まない。
冷房の箱の闇の中で、
ペルは、静かに覚悟する。
(……次は……
隠れるか……
賭けるか……)
氷は、
選ばされる。
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