第8話 生存戦略

冷房の箱の中は、静かだった。


だが、完全な静寂ではない。

ペルは、自分の内側にわずかな違和感を感じていた。


(……なんだ……これ……)


凍理は落ち着いている。

温度も、形も、安定している。


それなのに――

何かが、減っている。


《凍理状態:維持》

《警告:内部欠損を検知》


(欠損……?)


ペルは、輪郭に意識を向けた。

表面は整っている。

欠けてもいない。


だが――

奥が、薄い。


(……軽い……?)


存在そのものが、

わずかに希薄になっている感覚。


(……凍理……

 使うたびに……

 俺……減ってる……?)


《回答:肯定》


(即答すんな!!)


凍理は、淡々と続ける。


《凍理は熱を奪う理》

《奪取対象が不足した場合》

《使用者自身より補填》


(……つまり……

 燃料が足りないと……

 俺を削る……と……)


《概ね正確》


(雑に認めるな!!)


理解はできた。

凍理は万能ではない。


冷やす代わりに、存在を削る。


(……そりゃ……

 タダなわけねぇよな……)


そのとき。


箱の外で、

また少女の気配がした。


「……ペル……?」


蓋が、ほんの少しだけ開く。

光が差し込む。


(……やば……

 今の俺……

 耐えられるか……?)


《凍理:自動抑制》


霜が、自然と光を散らす。

だが、さっきより――弱い。


「……あれ……?」


少女は、首をかしげた。


「……昨日より……

 ちょっと……小さく……なった……?」


(気づくよな……

 そりゃ……)


少女は不安そうに、

箱の縁に手を置く。


「……大丈夫……?

 寒すぎた……?」


(違う……

 俺が……

 使いすぎた……)


声は届かない。

だが、ペルは必死に、

霜を揺らした。


“気にするな”

“大丈夫だ”


そんな意味を込めて。


少女は、しばらく見つめたあと、

小さく頷いた。


「……わかった……

 今日は……

 あんまり……開けない……」


(……助かる……)


蓋が閉まり、

暗闇が戻る。


ペルは、考える。


(……凍理は……

 命綱でもあり……

 刃でもある……)


使えば、生きられる。

使いすぎれば、削れる。


(……じゃあ……

 どうする……?)


答えは、ひとつしかない。


(……外から……

 冷を……

 もらう……)


自分以外から。

世界から。


《凍理:外部熱源探索》

《条件未達》


(……まだ……

 できねぇか……)


だが、方向は決まった。


凍理を使うために、

凍理に喰われない方法を探す。


それが、

氷として生きる道。


(……生きるって……

 忙しいな……)


冷房の箱の中で、

名を得た氷は、

初めて――


生存戦略を考え始めた。

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