第7話 凍理. 発動
冷房の箱の中。
ペルは、意識を研ぎ澄ませていた。
(……できる……気がする……)
第六話で感じた“応答”。
凍理は、もう沈黙していない。
《凍理:待機》
《意志入力を検知可能》
(入力、入力って……
コマンドじゃなくて、感覚か……)
ペルは思い出す。
溶ける恐怖。
形を失う不安。
砕かれ、食われ、消えかけた記憶。
(……もう……
あんなの、嫌だ)
冷たく在りたい。
崩れずに、ここに居たい。
ただそれだけを、強く願った。
《意志入力:確定》
《凍理:局所干渉を開始》
――カァン。
音がした。
金属でも、氷でもない、澄んだ音。
(……来た……)
冷房の箱の内側。
空気が、ゆっくりと沈む。
温度が――下がる。
だがそれは、
“凍らせる”ほど強引なものではない。
奪うように、
持っていくように、
熱だけが抜け落ちていく。
《局所温度:安定域へ移行》
(……これが……
凍理……)
ペルの輪郭が、はっきりする。
表面の霜が揃い、
欠けていた部分が、静かに埋まっていく。
(……回復……?
いや……再構成……?)
そのとき。
箱の外で、
誰かが息を呑む音がした。
「……え……?」
少女だ。
箱に手を触れた瞬間、
指先から、白い息が漏れる。
「……冷たい……
さっきより……」
(やべ……
やりすぎた……?)
少女は慌てて手を離すが、
恐怖ではなく、困惑の表情だった。
「……ペル……
あなた……」
箱の中で、
ペルは必死に制御を試みる。
(止まれ……
これ以上、冷やすな……)
《凍理:制御入力受理》
《干渉範囲:縮小》
冷気が、すっと引く。
「……戻った……?」
少女は、しばらく箱を見つめてから、
小さく息を吐いた。
「……びっくりした……
でも……」
箱に、そっと布をかける。
「……大丈夫……
ちゃんと……生きてる……」
(生きてる、か……)
その言葉が、
ペルの内側で、静かに響いた。
《凍理:発動成功》
《存在安定度:上昇》
(……やっと……
“できること”ができた……)
凍理は、もはや表示ではない。
応答でもない。
発動した。
小さく。
静かに。
だが確実に
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