第6話 凍理. 応答
暗い。
だが、安心できる暗さだった。
木と石に囲まれた冷房の箱の中で、
ペルはじっと存在を保っている。
(……静かだ……)
外の音は、かすかにしか届かない。
足音。
風。
遠くの鳥の声。
それらすべてが、冷気の膜越しに歪んで聞こえる。
(……ここ、悪くないな……)
《凍理反応:安定》
《外界遮断率:上昇》
(……あ?)
ペルは違和感を覚えた。
今まで、凍理は「表示」されるだけだった。
だが今は――
何かが、返してきている。
(……聞こえてる……?)
意識を、内側へ向ける。
《凍理》
《存在の状態を確認しますか》
(……は?
質問してきた?)
凍理が、初めて応答した。
(……確認する……?
いや、そもそも……
俺、どうやって操作してるんだこれ……)
試しに、
“保ちたい”
という感覚を強く思い描く。
溶けたくない。
崩れたくない。
ここに在りたい。
《意志入力:受理》
《維持優先度:上昇》
――キィン。
箱の内側で、
空気が澄んだ音を立てた。
(……冷たい……
けど……気持ちいい……)
ペルの輪郭が、わずかに明確になる。
表面の霜が整い、
形が“安定”する。
《凍理状態:半覚醒》
《自律維持:可能》
(半覚醒ってなんだよ……
完全覚醒したらどうなるんだ……)
だが、怖さよりも――
確かな手応えがあった。
(……俺……
凍理を……使ってる……?)
そのとき。
箱の外で、
布が擦れる音がした。
「……ペル……?」
少女の声。
(……起きたか……)
箱の蓋が、少しだけ開く。
光が、細く差し込む。
(やば……
光……)
だが。
《凍理反応:遮光補助》
ペルの表面に、
淡い霜が走る。
光が、柔らかく散った。
「……あ……」
少女は、目を見開いた。
「……光……
はね返した……?」
(反射っていうか……
拡散……?)
少女は、そっと蓋を閉じる。
「……大丈夫……
今の……きれいだった……」
(褒められた……)
箱の中で、
ペルは確信する。
(……凍理……
これ……ただの状態表示じゃねぇ……)
それは――
生きるための理ことわり。
氷として在るための、
唯一の武器。
《凍理:応答状態維持》
(……これで……
少しは……
長くいられる……)
箱の外で、
少女の足音が遠ざかる。
静寂が戻る。
だが今度の静けさは
独りではなかった。
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