第3話 外へ

「……寒い……」


少女は寝台の上で身を丸めた。

夜はまだ浅い。

それなのに、腹の奥から冷気がにじみ出てくる。


「……冷え避けの護符、外したはずなのに……」


もちろん関係ない。

原因はただ一つ。


「護符じゃねぇ。俺だ」


冷は、少女の内側で静かに形を保っていた。

《凍帰》はすでに鎮まり、氷としての輪郭も安定している。


問題は――居場所だった。


「いや、さすがに誰かの腹の中は拠点に向いてねぇ……」


《凍理反応:安定》

《外界移行条件を探索中》


「そんなもんまであるのかよ……」


そのとき、

少女が急に身を起こした。


「……気分、悪い……」


「お?」


少女は口元を押さえ、

水受けの石台へと足早に向かう。


「ちょ、待て、嫌な予感――」


次の瞬間。


「……っ」


ごぼり。


世界が、反転した。


「うおおおおおっ!!?」


冷は水と一緒に吐き出され、

石台に叩きつけられて転がった。


「……あ?」


視界が一気に開ける。

冷たい空気。

確かな重み。


「……外だ……?」


少女と視線が交わる。


正確には――

少女が、石台の上に転がる氷を見下ろしていた。


「……え……?」


少女は、完全に固まった。


「……これ……

 さっき、口に含んだ……?」


「勝手に食べ物扱いするな」


冷は必死に意識を集中させる。


(動け……

 頼むから、ただの氷じゃないって伝われ……!)


――ピシッ。


氷の表面に、霜の紋が走った。


「……割れた?」


違う。

割れたのではない。


組み替わった。


凍理凍帰派生反応》

《外形偏移:微弱》


「……え……?」


冷の一部が伸び、

指にも似た形をとる。


「……動いた……?」


少女は一歩、後ずさった。


「……氷の……精……?」


「お、食べ物からちょっと格上がったな」


だが声は、やはり届かない。


冷は悟る。


「……会話するには、

 まだ凍理が足りねぇか……」


石台の縁で、

意思を宿す氷と、

未知を前に立ち尽くす少女が向かい合う。

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