第2話

 あなたは奥の間にひとりで寝ていた。あなたの同い年の妻は五十年近くあなたの言いなりだった。何の文句を言うことも許されず黙ってあなたに仕え続けた。そんな従者のような妻を歯ぎしりがうるさくて眠れないとか言ってあなたは部屋から追い出した。妻は隣の部屋で寝ている。そいつを呼ぶしかない。あなたはそう考えて呼ぼうとした。

 しかし言葉が出てこない。あなたは焦った。隣にいる不肖の嫁を呼びつける言葉が出てこないのだ。

 唸るようにのどを震わすと声らしき音は出る。何だか獣の威嚇のようだ。あーとかウーとか唸った後に言葉が出てこないのだった。

 それまでも言葉が出にくいことはあった。しかしたいてい、あれだ、あれ――といった言葉が出て相手に察することを強要できたのに、それすら出てこなかった。

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