第二章 落ちる世界、開く扉

屋上の扉を開けると、冷たい夜風が頬を撫でた。


真冬の空気が、疲れ切った体に心地よい。


僕は柵にもたれかかり、夜空を見上げた。


星はほとんど見えない。都会の明かりが、全てを塗りつぶしている。


「光は、今頃どこにいるんだろう」


死後の世界なんて、信じていない。でも、もし本当にあるなら、光はきっと笑っているんだろうな。


そんなことを考えながら、僕は柵に体重を預けた。


その瞬間、嫌な音がした。


ギシッ。


「え?」


次の瞬間、僕の体は宙に浮いていた。


老朽化した柵が外れて、僕は夜の闇へと投げ出された。


「あ……」


不思議と、怖くはなかった。


むしろ、このまま楽になれるなら、それもいいかもしれない。


そんな考えが頭をよぎる。


光、やっと君のところに行けるのかな。


意識が遠のいていく。


そして、全てが暗闇に包まれた。


「……大丈夫?」


優しい声が聞こえる。


誰だろう。この声は知らない。


「うなされていたみたいだけど、悪い夢でも見ていたの?」


ゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が見えた。


木製の梁が走る、温かみのある部屋。


顔を横に向けると、三十代くらいの女性が心配そうな表情で僕を見つめていた。


「あの、ここは……?」


「よかった、気がついたのね。あなた、森の中で倒れていたのよ。怪我はないみたいだけど、しばらく休んでいって」


森?倒れていた?


状況が全く理解できない。


僕は確か、ビルから落ちたはずだ。なのに、どうして森にいたんだろう。


「あの、僕はどうして……」


「わからないわ。でも、きっと神様が助けてくれたのよ」


神様。


その言葉に、僕は首を傾げた。


女性は優しく微笑むと、温かいスープを差し出してくれた。


「とりあえず、これを飲んで。話はそれからでも遅くないわ」


僕は素直にスープを受け取り、一口飲んだ。


体の奥底から、温かさが広がっていく。


ここは一体、どこなんだろう。


そして、僕はなぜここにいるんだろう。


混乱する頭で、僕はただぼんやりと窓の外を眺めた。


見たこともない風景が、そこには広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る