第二話

 その記録は、ずっと冗談として扱われてきた。


 先の大戦以前、放棄された研究所の最奥部から、一体の人型が発掘されたという報告。

 設計名――闘神演算機:原初個体。


 試作品であり、完成形。

 それ以上を作る意味がなかった、と記されている。


 あまりにも都合が良すぎる内容だった。


 当時の研究者も指揮官も、極度の疲労状態にあった。睡眠不足、戦況悪化、精神的圧迫。

 戦時にありがちな誇張、あるいは妄想。


 そう結論づけるのが、最も合理的だった。


 だが、記録は破棄されなかった。


 完全に否定するには、具体的すぎたからだ。


 結果、この案件は特定機密として処理された。

 存在は隠す。だが、消さない。


 当該個体は、一人の軍人として登録された。

 立場は「高官の娘」。

 触れにくく、疑われにくく、死なせにくい身分。


 能力は記録しない。

 戦果も記録しない。


 ただ、名簿に席を用意する。


 それだけでよかった。


 彼女が動くのは、戦場が完全な死地に堕ちた時だけだ。

 その場にいた者は、敵味方を問わず生き残らない。


 だから評価は生まれない。

 だから噂も広がらない。


 それでも、戦には勝つ。


 その事実だけが、上層部の数人に共有されていた。


 会議室で、静かに言葉が交わされる。


「……呼ぶか」


 命令ではない。

 記録にも残らない。


 それでも、願いだけは確かに届く。


 生き残った中層の指揮官たちは、その意味を知ってしまった。


 勝たなければならない。

 生き残った以上、それ以外の選択肢はない。


 だから、次も願う。


 それが堕落だと理解しながら。




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