第43話像と向き合う者

 管理室の一角に、

 隔離観測窓が開かれていた。


 そこに映るのは、

 戦場。


 燃える城。

 咆哮。

 そして――

 自分。


《第六天魔王+》


 信長は、

 無言で

 それを見ている。


 角を持ち、

 炎を纏い、

 部下を従え、

 圧倒的な力で

 蹂躙する存在。


「……似ておるな」


 小さく、

 そう呟いた。


 濃姫が、

 横に立つ。


「世が

 望んだあなたです」


「恐れられ、

 語られ、

 便利に

 象徴化された姿」


 信長は、

 鼻で笑った。


「儂は、

 あんなに

 単純ではない」


「ええ」


 濃姫は

 頷く。


「だから、

 歪むのです」


 官兵衛が、

 報告を挟む。


「現在の天魔王像は、

 プレイヤーの恐怖と期待に

 適応進化しています」


「強さは

 信長様本人ではなく、

 信長という言葉に

 依存」


 信長は、

 目を細める。


「なるほど」


「つまり――

 儂は、

 もう

 怪物なのだな」


「いいえ」


 天照大神が、

 静かに言う。


「それは

 “怪物にしたがる

 人の心”だ」


 信長は、

 少しだけ

 目を伏せる。


「……」


 彼の脳裏に、

 過去が

 よぎる。


 比叡山。

 長篠。

 本能寺。


 英雄と暴君。

 改革者と破壊者。


 すべて、

 後世が

 貼り付けた

 札だ。


「儂は、

 ただ

 早かっただけだ」


 管理室に、

 静けさが

 落ちる。


 官兵衛が、

 淡々と続ける。


「現在、

 天魔王+は

 “討たれる役割”として

 最適化中」


「撃破されることで、

 プレイヤーに

 強烈な

 成功体験を

 与えます」


 信長は、

 それを聞いて

 笑った。


「良い」


「ならば、

 討たれてやろう」


 濃姫が、

 わずかに

 驚く。


「……良いのですか」


「良い」


 信長は、

 画面から

 目を離さない。


「儂は、

 死んだ」


「だからこそ、

 次が

 ある」


 天照大神が、

 穏やかに

 頷く。


「神話とは、

 終わるから

 続く」


 信長は、

 ゆっくりと

 背を伸ばした。


「管理者」


 俺を見る。


「一つ、

 頼みがある」


「何だ」


「天魔王が

 倒れる時――

 派手に

 するな」


「英雄を

 一人、

 決めるな」


「皆で

 倒せ」


 俺は、

 少し考え、

 頷いた。


「了解した」


 信長は、

 満足そうに

 笑う。


「それでこそ、

 良い神話だ」


 観測窓の中で、

 天魔王が

 咆哮する。


 だが――

 それはもう、

 信長ではない。


 信長は、

 それを

 見送った。


 自分の像が

 倒される未来を。


 次の物語が

 生まれる瞬間を。

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