第42話第六天魔王、再臨

 管理室で、

 信長が珍しく

 沈黙していた。


 《神代回廊》の世界では、

 里が増え、

 道が生まれ、

 人が定住し始めている。


 平和だ。

 穏やかだ。

 ――そして。


「……ぬるい」


 信長が、

 低く言った。


 官兵衛が、

 即座に反応する。


「否定はしません」


「緊張が、

 欠けています」


 信長は、

 俺を見る。


「管理者」


「戦を

 起こせとは

 言わぬ」


「だが――

 戦を

 避けられぬ理由は

 用意すべきだ」


 天照大神が、

 楽しそうに

 首を傾げる。


「ほう?」


「人はな、

 選べる時ほど

 選ばぬ」


 信長は、

 笑った。


「だが

 守るものが

 生まれた瞬間、

 牙を剥く」


 俺は、

 少し考え――

 頷いた。


「……進言として、

 受け取る」


戦イベント設計


 官兵衛が、

 即座に

 設計を始める。


「条件は

 三つ」


「一、

 参加は

 完全任意」


「二、

 敗北しても

 世界は

 終わらない」


「三、

 勝利しても

 英雄は

 固定されない」


 信長が、

 口元を

 歪める。


「良い」


「では――

 敵役は?」


 俺は、

 静かに言った。


「第六天魔王」


 空気が、

 一瞬

 変わる。


 天照大神が、

 目を細める。


「……お前自身か」


「“像”だ」


「神でも、

 本人でもない」


 信長は、

 低く笑った。


「ならば、

 相手を

 してやろう」


イベント名:《天魔、現る》


 その日、

 《神代回廊》に

 初めて

 “強制告知”が

 流れた。


《期間限定イベント発生》

《天魔、現る》

《推奨人数:不定》

《勝利条件:撃破、または撃退》


 同時に――

 空が、

 割れた。


 黒雲の奥から、

 巨大な影が

 姿を現す。


 燃える城。

 炎の旗。

 その中央に――

 角を持つ武将。


《第六天魔王+》


 名の横には、

 無数の

 副官表示。


《明智光秀》

《柴田勝家》

《丹羽長秀》

《滝川一益》

《森長可》


 さらに。


 戦場の端で、

 一人だけ

 表示が

 揺れている。


《傾奇者・前田慶次》


「……え?」


 プレイヤーたちが、

 ざわめく。


 敵なのか。

 味方なのか。


 誰にも、

 分からない。


戦場の混乱


 最初に

 突っ込んだ

 パーティは、

 一瞬で

 吹き飛ばされた。


「無理だろ!」


「数が違う!」


「撤退だ!」


 だが――

 逃げ道は、

 完全ではない。


 城下にある

 里が、

 炎に

 包まれ始める。


 NPCの悲鳴。

 壊れる建物。


 初めて、

 プレイヤーは

 理解する。


 選ばなければ、

 失う。


 誰かが、

 叫ぶ。


「守るぞ!」


「戦え!」


「負けてもいい、

 でも――

 何もしないのは

 嫌だ!」


管理室


 信長は、

 その光景を見て

 満足そうに

 頷いた。


「これだ」


「これが、

 人だ」


 天照大神は、

 目を輝かせている。


「……良い顔を

 しておる」


「恐れて、

 迷って、

 それでも

 進む」


 官兵衛が、

 淡々と

 報告する。


「神話密度、

 急上昇」


「役割、

 自発的に

 発生中」


「英雄、

 複数候補

 確認」


 俺は、

 静かに

 呟いた。


「……成功だな」


 信長が、

 振り返る。


「まだだ」


「天魔は、

 倒れねばならぬ」


 戦場で、

 前田慶次が

 大笑いする。


「ははははは!」


「面白え!」


「さて――

 今日は

 どっちに

 つくかな!」


 戦は、

 始まったばかりだ。


 これは――

 最初の

 神話になる。

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