第44話傾奇者・前田慶次の選択

 戦場の端。


 炎と鉄の匂いから、

 一歩だけ離れた場所で――

 前田慶次は、笑っていた。


「ははははは!」


 大太刀を肩に担ぎ、

 敵陣でも味方陣でもない

 曖昧な位置。


「面白えなぁ……

 どいつもこいつも、

 必死だ」


 彼の前には、

 《第六天魔王+》の軍勢。


 後ろには、

 里を守ろうとする

 プレイヤーたち。


 だが――

 慶次は、

 どちらも見ていない。


 見ているのは、

 人の顔だ。


「なぁ」


 逃げ遅れた

 低レベルのプレイヤーが、

 震えながら

 武器を構えている。


「なんで、

 逃げねぇ?」


 慶次が聞く。


「……守るって、

 決めたから」


 即答だった。


 慶次は、

 一瞬だけ

 目を細め――

 次の瞬間、

 大声で笑った。


「決めちまったか!」


 天魔王軍の

 武将NPCが、

 慶次を睨む。


「傾奇者、

 貴様は

 我らの側か」


 慶次は、

 肩をすくめる。


「さぁな」


「ただ――」


 大太刀を、

 地面に突き立てる。


「決めてねぇ奴と

 決めた奴なら」


「決めた奴の方が

 面白え」


 次の瞬間。


 慶次は、

 天魔王軍の

 横腹に突っ込んだ。


「なっ――」


 武将NPCが

 吹き飛ばされる。


 戦場が、

 一瞬

 静まる。


 そして――

 ログが流れる。


《傾奇者・前田慶次が行動を開始しました》


 慶次は、

 叫ぶ。


「いいかァ!」


「勝ち負けじゃねぇ!」


「どっちにつくか、

 今決めろ!」


 その声に、

 呼応するように

 プレイヤーたちが

 動く。


 守る者。

 突っ込む者。

 逃げる者。


 選択が、

 一斉に

 発生する。


 管理室で、

 官兵衛が報告する。


「……役割、

 急速に固定中」


「前田慶次、

 触媒として機能」


 信長が、

 低く笑った。


「やりおる」


「儂より、

 よほど

 神話向きだ」


 天照大神は、

 目を輝かせている。


「人が、

 人を

 動かしておる」


 戦場で、

 慶次は

 血と炎の中、

 笑い続ける。


「さぁ――

 祭りだ!」


 天魔王は、

 まだ倒れない。


 だが――

 戦は、

 始まった。


 神が動かしたのではない。


 傾奇者が、

 人を

 焚きつけた。


 それが、

 この戦の

 最初の火だった。

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