第41話神々、遊ぶ

 《神代回廊》は、

 静かに始まった。


 大規模な宣伝はしない。

 過剰な煽りもない。


 それでも――

 ログイン数は、

 想定を上回っていた。


「……ほう」


 管理室で、

 信長が腕を組む。


「これは、

 戦場になる」


 官兵衛が、

 即座に訂正する。


「否」


「現状、

 PvP発生率は

 低水準」


「協力行動が、

 異常に多い」


 信長が、

 眉をひそめた。


「……は?」


 画面には、

 奇妙な光景が映っている。


 刀を持つ者。

 弓を構える者。

 巫女装束の者。


 だが――

 誰も、

 斬りかからない。


「村を、

 作っている?」


 信長が、

 呟く。


 プレイヤーたちは、

 山間の地に集まり、

 役割を分担していた。


 伐採。

 建築。

 祈り。


「城でも、

 陣でもない」


 信長の声に、

 困惑が混じる。


「これは……

 里だ」


 官兵衛が、

 淡々と分析する。


「戦力を

 集中させず」


「争わず」


「長期維持を

 目的とした

 共同体」


 信長が、

 黙り込む。


「……儂の時代なら、

 焼いておる」


 濃姫が、

 微笑む。


「だからこそ、

 想定外なのです」


 信長は、

 苦笑した。


「人は、

 戦を

 したがらぬのか」


「否」


 官兵衛は、

 即答する。


「現実で

 十分」


 その言葉に、

 信長は

 短く笑った。


「なるほど」


「ならば――

 儂は

 別の戦を見よう」


天照大神、仕様を忘れる


 一方――

 天照大神は、

 別の画面に

 夢中だった。


「……美しい」


 表示されているのは、

 日の昇る演出。


 プレイヤーが

 特定の条件を満たすと、

 朝日が

 ゆっくりと

 世界を照らす。


 本来は、

 ただの

 環境演出だ。


 だが――

 彼女は

 そこに

 留まっていた。


「この光、

 少しだけ

 柔らかくできぬか」


 官兵衛が、

 一瞬

 処理を止める。


「……仕様外です」


「良いではない」


 天照大神は、

 楽しそうに

 笑う。


「“神代”なのだろう?」


「なら、

 朝日は

 祝福であるべきだ」


 画面の朝日が、

 わずかに

 色を変える。


 プレイヤーたちが、

 気づかぬまま

 立ち止まり、

 空を見上げる。


「……」


 俺は、

 それを見て

 何も言わなかった。


 天照大神が、

 振り返る。


「管理者」


「これは、

 干渉か?」


 俺は、

 少し考え――

 首を振る。


「……いいや」


「演出だ」


 天照大神は、

 満足そうに

 頷いた。


「楽しいな」


「人が、

 意味を

 受け取る瞬間は」


想定外は、悪くない


 信長が、

 腕を組み直す。


「戦は起きぬ」


「だが――

 物語は

 始まっておる」


 管理室のログが、

 更新される。


《神話密度:微増》

《文化振幅:回復傾向》

《異常:なし(良性変動)》


 官兵衛が、

 静かに言った。


「……成功です」


 俺は、

 椅子にもたれ、

 息を吐く。


「まだ、

 始まったばかりだ」


 仮想世界で、

 人は

 再び集い、

 選び、

 物語を作り始めている。


 神ですら――

 少しだけ、

 遊びながら。

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