第40話第2部:停滞する世界、仮想の神話
序章:止まったもの
世界は、
壊れなかった。
奇跡も、
神話も、
過剰な象徴も――
すべて分散され、
均された。
結果として、
人類史上もっとも
安定した時代が訪れた。
争いは減り、
偶像は短命になり、
熱狂は
管理された。
誰もが
選べる。
誰もが
自由だ。
――それでも。
「……退屈だな」
その言葉は、
誰の口から
発せられたのか、
分からない。
だが確かに、
世界のどこかで
囁かれた。
文化の停滞
新しい文化は
生まれる。
だが、
深まらない。
流行は、
瞬間的に拡散し、
瞬間的に消費される。
物語は
炎上を恐れ、
思想を避け、
意味を持たない。
英雄はいない。
悪もいない。
神話が、
作れなくなった。
それは、
安全と引き換えに
支払われた
代償だった。
世界の停滞
技術は進歩する。
だが、
方向性がない。
改善はされるが、
跳躍がない。
人類は
賢くなったが、
大胆さを失った。
管理室のログは、
それを
正確に示していた。
《異常:発生せず》
《神話密度:低下》
《文化振幅:微弱》
官兵衛が、
静かに言う。
「……世界は、
健康だ」
「だが、
成長していない」
管理者の決断
「だからこそ――
作る」
俺は、
管理席で
そう言った。
信長が、
眉を上げる。
「世界を、
か?」
「違う」
俺は、
指を鳴らす。
「世界の外側だ」
現実は、
これ以上
揺らさない。
だが――
揺らぎが
必要なのも事実。
「仮想世界を、
用意する」
天照大神が、
ゆっくりと
頷く。
「逃げ場、
ではないな」
「ああ」
「実験場だ」
VRMMO《神代回廊(かみしろかいろう)》
名は、
《神代回廊》。
完全没入型
VRMMO。
舞台は――
純和風世界。
八百万の神。
妖。
武士。
巫女。
陰陽。
だが、
史実でも
神話でもない。
「選択で、
神話が生まれる世界」
官兵衛が、
設計を読み上げる。
「固定職業、
なし」
「善悪、
未定義」
「プレイヤーの行動が、
物語を生成」
信長が、
低く笑った。
「面白い」
「人は、
また
神話を作るか」
「現実ではない」
俺は、
静かに言う。
「だからこそ、
本音が出る」
停滞を越えるために
この世界は、
安全だ。
だから――
壊さない。
代わりに、
燃やせる場所を
用意する。
仮想の神話。
仮想の英雄。
仮想の罪と選択。
そして――
それが現実に
何を持ち帰るのか。
管理者は、
席を立たない。
だが、
次の物語は
もう始まっている。
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