第33話第六天の進言

 管理室に、

 新たな警告は出ていない。


 世界は安定。

 数値も良好。


 それでも――

 信長は、

 その場を離れなかった。


「……一つ、

 進言がある」


 珍しい。


 信長が、

 こちらから

 話を切り出すのは。


 俺は、

 視線を上げる。


「聞く」


 信長は、

 腕を組んだまま

 管理席を見下ろす。


「お前は、

 倒れた」


「理由は明白だ」


「人が、

 足りぬ」


 端的。


 無駄がない。


「……十柱いる」


 そう返すと、

 信長は首を振った。


「柱は、

 柱だ」


「判断はできるが、

 処理はできぬ」


「戦で言えば、

 大将と旗本だけで

 戦をしておるようなもの」


 痛いところを突く。


「……続けろ」


 信長は、

 満足そうに頷いた。


「よかろう」


「我に、

 部下を創らせよ」


 一瞬、

 管理室が静まり返る。


 濃姫が、

 視線を鋭くする。


 天照大神は、

 何も言わない。


 ただ、

 聞いている。


「……部下?」


 確認する。


「神か?」


「いや」


 信長は、

 即座に否定した。


「人でもない」


「神に近いが、

 神ではない存在」


「命令を待たず、

 だが裁量を持つ」


「戦場で言えば――

 軍師、

 奉行、

 与力だ」


 理解できる。


 そして――

 危うい。


「……権限は?」


 俺は、

 慎重に問う。


「限定だ」


「世界には触れぬ」


「触れるのは――

 管理室の内側」


 信長の目が、

 真っ直ぐこちらを見る。


「情報整理」

「異常の仕分け」

「判断候補の提示」


「決断は、

 お前がやれ」


 沈黙。


 それは――

 確かに、

 今の俺に

 必要な役割だった。


 だが。


「……信長」


 俺は、

 言葉を選ぶ。


「それは、

 お前の勢力になる」


「管理が、

 歪む可能性がある」


 信長は、

 小さく笑った。


「歪まぬ組織など、

 存在せぬ」


「だからこそ、

 見える形にする」


「影で動くより、

 管理下に置け」


 濃姫が、

 静かに口を開く。


「……彼の言う通りです」


「今は、

 既に歪んでいます」


「“あなた一人”

 という点で」


 天照大神が、

 ゆっくりと頷く。


「提案は、

 理に適う」


「だが――

 条件がある」


 信長が、

 天照大神を見る。


「申せ」


「創造される者は、

 独立思考を持たぬ」


「忠誠ではなく、

 役割に従う存在とせよ」


「信長個人への帰属を、

 断て」


 一瞬。


 信長の表情が、

 険しくなる。


 だが――

 すぐに、

 笑った。


「……流石よな」


「神は、

 信用せぬ」


「よかろう」


 そして、

 俺を見る。


「どうする、

 管理者」


 俺は、

 管理席に

 深く腰を下ろす。


 モニターには、

 新しい項目。


《補助存在:創造申請》

《提案者:第六柱》


 深く、

 息を吐く。


「……条件付きで、

 許可する」


「権限は、

 管理室限定」


「最終決定権は、

 俺にある」


 信長は、

 口角を上げた。


「十分だ」


「ならば――

 創ろう」


 その声は、

 命令ではない。


 宣言だった。


 管理室の奥で、

 新たなスロットが

 静かに点灯する。


 世界は、

 まだ何も知らない。


 だが――

 管理者の戦は、

 確実に

 次の段階へ進んだ

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