第31話覚醒
最初に戻ったのは、
音だった。
遠くで、
一定のリズムが鳴っている。
……いや。
これは、
自分の鼓動だ。
「……」
目を開けようとして、
すぐには開かなかった。
まぶたが、
重い。
だが――
暗闇ではない。
管理室の灯りが、
閉じたまぶたの裏で
柔らかく滲んでいる。
「……生きてる、か」
声が、
かすれる。
だが、
ちゃんと出た。
それだけで、
少し安心した。
体を動かそうとする。
――動く。
痛みはない。
だが、
空っぽだ。
力が、
ごっそり抜けた感覚。
それでも、
“戻ってきた”と
分かる。
「……何が、
あった」
管理席に
ゆっくりと起き上がる。
視界が、
自然に整う。
数値が、
勝手に理解できた。
以前より――
読みやすい。
《管理者状態:回復中》
《意識復帰:確認》
《補助介入履歴:一件》
「……一件?」
ログを、
開く。
そこには、
簡潔な記録。
《第六柱:配置調整》
《干渉レベル:最小》
《目的:時間確保》
短い。
だが、
十分だった。
「……信長、か」
怒りは、
湧かなかった。
むしろ――
納得が先に来る。
「……悪い」
誰にともなく、
呟く。
視線を上げると、
二つの気配。
濃姫は、
腕を組み、
静かに立っている。
天照大神は、
少し離れた位置で、
こちらを見ていた。
「……戻ったな」
濃姫が、
淡々と言う。
「ああ」
「迷惑、
かけた」
「当然です」
即答だった。
だが、
声は柔らかい。
天照大神が、
一歩、前に出る。
「覚醒、
というほどの
変化はない」
「だが――
お前は、
理解した」
「一人では、
続かぬということを」
否定できなかった。
「……ああ」
管理席に、
深く腰を下ろす。
以前のような
重さはない。
代わりに――
境界が見える。
どこまでが
自分の責任で、
どこからが
委ねるべき領域か。
「……信長の判断は、
正しかった」
「感情じゃない。
構造の問題だ」
濃姫が、
小さく笑う。
「やっと、
人になりましたね」
天照大神が、
静かに頷く。
「管理者とは、
すべてを抱える者ではない」
「判断を、
分配する者だ」
その言葉が、
胸に落ちる。
「……次は」
俺は、
画面を操作する。
補助観測ラインが、
正式に表示される。
以前より、
太く、
安定している。
「……次は、
倒れる前に
頼る」
それは、
弱さの宣言ではない。
運用の更新だ。
管理室の灯りが、
一段、明るくなる。
世界は、
何事もなかったかのように
回り続けている。
だが。
管理者は、
もう同じではない。
倒れたからこそ、
見えたものがある。
それを、
忘れない限り――
この席に、
座り続けられる。
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