第30話第六天魔王動く
管理室に、
変化はなかった。
灯りは点いたまま。
数値は安定。
世界は、回っている。
ただ一つ――
管理席だけが、
空いていた。
「……倒れたか」
織田信長は、
その光景を見て、
低く呟いた。
床に伏す管理者。
意識はない。
死んではいない。
だが――
戻る保証もない。
「人の身で、
よくやりおった」
嘲りではない。
称賛でもない。
評価だった。
少し離れた場所で、
濃姫が静かに立っている。
視線は、
管理者に向けられているが、
一歩も動かない。
「……行かれるのですか」
信長は、
振り返らない。
「禁を破るほどではない」
「だが――
何もしないのも、
好かぬ」
さらに奥。
管理室の高位観測域。
天照大神が、
静かに座していた。
光は抑えられ、
威光はない。
ただ、
在る。
「織田」
天照大神が、
穏やかに言う。
「お前が動けば、
世界はそれを
“選択”として記録する」
「覚悟はあるか」
信長は、
鼻で笑った。
「選択なぞ、
とうにしておる」
「これは――
裁きではない」
「“間を持たせる”だけよ」
そう言って、
信長は一歩、
前に出た。
管理権限を、
奪わない。
因果を、
書き換えない。
ただ――
戦場を読む者として
盤面を見る。
「……薄いな」
信長の視線が、
世界へ伸びる。
人の不安。
期待。
渇望。
管理者が倒れたことで、
再び集まり始めている。
「同じ轍を、
踏ませる気か」
信長は、
指を鳴らす。
力ではない。
号令でもない。
配置だ。
因果の流れに、
ほんのわずか
“遅れ”を与える。
期待が、
一点に集まらないよう、
散らす。
人が、
人に向くように。
「……これでよい」
それ以上、
踏み込まない。
踏み込めば、
神になる。
それは、
この男の本意ではない。
濃姫が、
信長を見つめる。
「あなたにしては、
優しい」
「勘違いするな」
信長は、
視線を戻さず言う。
「我は、
“無様な戦”が
嫌いなだけだ」
天照大神が、
静かに目を閉じる。
「……よい」
「これは、
干渉ではない」
「“時間を稼ぐ”という
判断だ」
信長は、
一歩下がる。
盤から、
手を離す。
「目を覚ませ、
管理者」
「次は――
貴様の番だ」
管理室は、
再び静かになる。
だが――
世界は、
崩れなかった。
それを成したのは、
神の力ではない。
戦を知る者の、
判断だった。
濃姫と天照大神は、
その背を見送りながら、
何も言わない。
監視者は、
まだ、
席を立たない。
――管理者が
戻る、その時まで。
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