第29話倒れる
管理室の灯りが、
やけに遠かった。
数値は、
まだ安定している。
警告も、
緊急ログもない。
それなのに――
立っていられなかった。
「……っ」
一歩、
踏み出そうとして。
足に、
力が入らない。
感覚が、
遅れてくる。
床に膝が触れた。
次の瞬間、
全身の力が抜けた。
音もなく、
前に倒れる。
頬が、
冷たい床に当たる。
「……ああ」
声が、
思ったより
小さかった。
意識は、
まだある。
だが――
体が言うことを
聞かない。
《管理者状態:臨界》
《強制休止:不可》
《代替判断者:存在せず》
淡々と、
残酷な表示。
「……だよな」
視界の端が、
暗くなっていく。
考えようとすると、
思考が
すり抜ける。
世界。
管理。
判断。
全部――
重すぎた。
「……まだ……」
まだ、
やることがある。
まだ、
決めていない。
でも――
体は、
限界だった。
管理室の外縁。
あの補助観測ラインが、
今度は
はっきりと光る。
誰かが、
見ている。
だが、
入ってこない。
それが、
正しいと
分かってしまうのが、
つらかった。
「……頼む……」
誰に向けた言葉か、
自分でも分からない。
十柱は、
沈黙している。
動けないのではない。
動かない。
管理者が
意識を失う瞬間に
介入しない。
それが、
この世界の
最後のルール。
視界が、
完全に暗くなる直前。
頭の中に、
一つだけ
浮かんだ。
――君は、
偶像でいい。
人でいい。
「……ああ」
微かに、
笑う。
救ったつもりはない。
ただ、
線を引いただけだ。
それで、
ここまで来た。
暗闇が、
すべてを覆う。
管理室の灯りは、
消えない。
世界は、
回り続ける。
だが――
管理者の意識は、
そこで途切れた。
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