第23話間章:天魔王と、その妻
交差点の信号が変わり、
人の波が一斉に動き出す。
「……多いな」
織田信長は、
眉をひそめて空を見上げた。
高層ビル。
電光掲示板。
絶え間なく行き交う人。
「城下町、
とは言えぬな」
「城下町にしては、
随分と騒がしいですわね」
隣を歩く濃姫は、
穏やかに微笑んだ。
着物ではない。
現代風の服装。
だが、
不思議と周囲は
誰も二人を怪しまない。
「人が、
命令されずに動いている」
信長は、
歩きながら呟く。
「それでいて、
同じ方向を向く」
「……面白い」
「あなたは、
楽しそうですね」
濃姫が、
横目で見る。
「支配の匂いを
感じませんか?」
「感じるとも」
信長は、
口元を歪めた。
「だが――
これは恐怖ではない」
交差点の向こうで、
若者たちが
笑いながら写真を撮っている。
誰かが
立ち止まれば、
自然と流れが変わる。
「誰も、
命じておらぬ」
「それでも、
秩序がある」
信長は、
静かに言った。
「……気に入らぬが、
嫌いではない」
濃姫は、
小さく息を吐く。
「あなたが
そう言うのは、
珍しい」
二人は、
路地裏の小さな喫茶店に入った。
自動ドアが開き、
ベルが鳴る。
「……扉が、
勝手に開いたぞ」
「自動です」
「……魔法か」
「科学です」
席に座ると、
店員が水を置く。
「ご注文、
お決まりですか?」
濃姫が、
微笑んで答えた。
「珈琲を」
「あなたは?」
「では、
同じものを」
店員が去ると、
信長は腕を組む。
「人は、
よく働くな」
「誰かに
命じられているわけでは
ないのに」
「ですが」
濃姫は、
カップを見つめる。
「生きるために、
縛られています」
「金」
「時間」
「評価」
信長は、
低く笑った。
「見えぬ鎖か」
「恐怖より、
厄介です」
コーヒーが運ばれる。
信長は、
一口飲み――
眉を上げた。
「……苦い」
「砂糖を?」
「不要だ」
そう言って、
再び口にする。
「……悪くない」
濃姫は、
その様子を見て、
少しだけ笑った。
「あなた」
「この世界を
どうしたいのですか」
信長は、
しばらく黙り――
窓の外を見る。
「……まだ、
決めておらぬ」
「だが」
「人が、
自分で進むなら」
「我は、
背中を押すだけでよいのかもしれぬ」
濃姫は、
静かに頷く。
「それでこそ、
あなたです」
二人が店を出ると、
夕焼けが街を染めていた。
「……太陽が、
沈むな」
「ええ」
濃姫は、
空を見上げる。
「ですが――
また昇ります」
信長は、
その言葉を
しばらく噛みしめ、
やがて言った。
「……天照め」
「余計なところで、
仕事をしおる」
濃姫は、
小さく微笑んだ。
人の世界は、
今日も続く。
神が歩いていることなど、
誰も知らぬまま。
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