第24話直接干渉

 警告は、

 音ではなかった。


 数値でも、

 ログでもない。


 直感に近い違和感だった。


「……来たな」


 管理室のモニターに、

 一点だけ、

 妙に“重い”座標が浮かぶ。


 感情密度、急上昇。

 因果干渉、局所集中。

 観測補助――未接続。


「場所は……」


 座標を展開した瞬間、

 俺は一度だけ目を見開いた。


「……住宅地?」


 しかも、

 ごく普通の一軒家。


 だが、

 名前を照合して

 確信に変わる。


 ――星宮家。


 アイドルの、

 実家。


「……最悪だ」


 ここで起きているのは、

 事件じゃない。


 “象徴化”の暴走だ。


 人々の期待、

 願望、

 救済欲求。


 それらが、

 一人の存在に

 無意識に集まり始めている。


 放置すれば、

 神話になる。


 悪い意味で。


「……間に合え」


 管理室の権限を最小限だけ使う。


 転移。

 不可視化。

 干渉制限、解除。


 次の瞬間。


 ――夜の住宅街。


 静かなはずの場所が、

 異様にざわついていた。


 人はいない。

 音もない。


 だが、

 空気が重い。


「……集まってやがる」


 見えない“期待”が、

 家の周囲に

 渦を巻いている。


 家の中から、

 かすかな声。


「……お願い……」


 それは、

 祈りだった。


 誰か一人のものじゃない。


 無数の知らない誰かの祈り。


 俺は、

 家の敷地に足を踏み入れる。


 瞬間、

 圧がかかる。


「……っ」


 視界が歪む。


 “偶像”を

 神に引き上げようとする力。


「冗談じゃない」


 俺は、

 地面に手をついた。


「これは――

 選ばれたわけじゃない」


「押し付けられてるだけだ」


 干渉権限、限定行使。


 因果の流れを遮断。


 空気が、

 一気に軽くなる。


 家の中へ。


 玄関は、

 鍵がかかっていない。


 開けると、

 リビングに――

 少女がいた。


 星宮ルナ。


 ステージの衣装でも、

 笑顔でもない。


 ただの、

 疲れ切った一人の人間。


「……誰?」


 怯えた目。


 当然だ。


 俺は、

 ゆっくり言う。


「通りすがりだ」


「……でも、

 君を“神”にする気はない」


 その言葉に、

 彼女の肩が

 小さく震えた。


「……外、

 変でしょ」


「ああ」


「だから、

 来た」


 俺は、

 彼女と外の“期待”の間に立つ。


「君は、

 偶像でいい」


「人でいい」


「救う側じゃない」


 沈黙。


 数秒。


 やがて、

 彼女は

 小さく頷いた。


「……それで、

 いい」


 その瞬間。


 外の圧が、

 完全に霧散した。


 象徴化は、

 失敗。


 神話は、

 生まれなかった。


 俺は、

 息を吐く。


「……ギリギリだった」


 彼女は、

 俺を見る。


「……あなた、

 何者?」


 俺は、

 一瞬だけ考えて――

 答える。


「管理する側だ」


 それ以上は、

 言わない。


 言えない。


 俺は、

 玄関へ向かう。


「もう大丈夫だ」


「今日は、

 休め」


 外に出る。


 夜は、

 ただの夜に戻っていた。


 管理室へ戻る前、

 一度だけ振り返る。


「……次は」


「観測だけじゃ、

 済まないかもしれないな」


 それでも。


 直接干渉は、

 これで一度きりにしたい。


 そう、

 本気で思っていた。

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