第21話礼節という武器
第七柱――濃姫の起動以降、
管理室の空気は、わずかに落ち着いていた。
信長は健在。
だが、加速は抑えられている。
「……次だ」
俺は、
残る席を見た。
空席は三つ。
だが――
この二つは、最初から対だった。
「第八柱と第九柱」
リーネが、
静かに頷く。
「同時起動を推奨します」
中央ホログラムに、
二つの枠が並ぶ。
『管理神:第八柱』
『管理神:第九柱』
『担当領域:外交・交渉・文明間調停』
第三柱が、
小さく口笛を吹く。
『うわ〜
一番“揉め事の裏側”担当』
「……戦争より、
怖いやつだ」
佐倉の呟きに、
誰も否定しなかった。
起動シークエンス。
光は派手ではない。
だが、
整いすぎている。
そして現れたのは――
一人の男性と、一人の女性。
完璧に整えられたスーツ。
背筋は真っ直ぐ。
視線は穏やか。
『お初にお目にかかります』
男性が、
軽く一礼する。
『第八柱』
『交渉を司ります』
続いて、
女性が優雅に微笑む。
『第九柱です』
『同意形成と
感情緩衝を担当いたします』
第三柱が、
思わず囁く。
『……圧が静かすぎて
逆に怖い』
信長が、
興味深そうに二人を見る。
『ほう』
『言葉で戦う者か』
第八柱は、
にこやかに答えた。
『戦いません』
『勝たせていただくだけです』
管理室が、
一瞬で静まり返る。
「……どうやってだ」
俺が問う。
『選択肢を整えます』
第九柱が、
穏やかに続ける。
『人が
“これしかない”と
思える状況を』
『誰も傷ついたと
思わぬ形で』
第四柱・第五柱の
ログが反応する。
『分岐数、
整理中』
『拒絶率、
低下』
「……拒否すら、
させないのか」
佐倉の声が、
乾いていた。
『誤解です』
第八柱は、
静かに首を振る。
『拒否は尊重します』
『ただし――
拒否した場合の
結果を』
『丁寧に、
説明するだけです』
信長が、
低く笑った。
『それは
支配と何が違う』
第九柱は、
一拍置いて答える。
『恐怖を使いません』
『敬意を払います』
『相手を
“人として扱う”』
その言葉に、
濃姫がわずかに頷いた。
『……急がない神』
『悪くありません』
第三柱が、
苦笑する。
『てかこの二人、
炎上させないプロだ』
管理室に、
初めて“安心感”が流れた。
だが――
同時に、
理解もした。
この二柱は、
戦争を止められる。
同時に、
世界を丸めることもできる。
「確認する」
俺は、
二人を見据える。
「最終決定権は?」
二人は、
同時に一礼した。
『常に、
管理者に』
『我々は、
納得させるだけです』
空席は、
あと一つ。
十柱構想は、
ほぼ完成していた。
支配。
抑止。
感情。
選択。
交渉。
そして最後に残るのは――
管理者自身をどう扱うか。
その問いが、
管理室の奥で
静かに待っていた。
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