第20話第七柱、濃姫

 第六柱――織田信長が起動してから、

 管理室は明らかに変質していた。


 数値は安定している。

 争いは減っている。

 死者予測も、下がっている。


 ――それでも。


「……息苦しい」


 佐倉のその一言が、

 すべてを表していた。


『当然だ』


 赤黒いホログラムの奥で、

 信長が笑う。


『道が一本になれば、

 迷いは消える』


『人は、

 楽になる』


「楽になる、

 か」


 俺は、

 端末に手を置いた。


「……リーネ」


「第七柱の起動権限、

 俺に回せ」


 リーネが、

 初めて一瞬だけ

 間を置いた。


「……理由を」


「必要だからだ」


 短く答える。


「第六柱を

 止められる可能性がある」


 第三柱が、

 目を丸くする。


『え、

 対抗馬用意すんの?

 ガチじゃん』


 信長は、

 興味深そうにこちらを見る。


『ほう』


『我に抗う神か』


『面白い』


「抗わない」


 俺は、

 はっきり言った。


「理解させる」


 管理室中央に、

 新しい枠が出現する。


『管理神:第七柱』

『担当領域:抑止・感情調停・対個神対応』


 佐倉が、

 息を呑む。


「……神を、

 管理する神」


「そうだ」


 俺は、

 視線を逸らさない。


「人じゃ、

 無理だ」


 信長が、

 低く笑った。


『随分と、

 我を買っているな』


 起動シークエンスが、

 進む。


 光は、

 白でも赤でもない。


 柔らかい、金色。


 そして――

 姿が、

 はっきりと現れた。


 長い黒髪。

 静かな佇まい。

 だが、

 視線は鋭い。


『……遅いのですね』


 その声に、

 管理室が静まる。


「……名を」


 俺が言う前に、

 彼女は信長を見た。


『分かっています』


『第六天魔王』


 信長の笑みが、

 わずかに変わる。


『……ほう』


『その顔』


『知っている』


 彼女は、

 一礼する。


『第七柱』


『濃姫』


 佐倉が、

 小さく呟いた。


「……本当に、

 夫婦じゃないですか」


 第三柱が、

 即座に突っ込む。


『いや重っ!

 関係性重すぎ!』


 濃姫は、

 ちらりと第三柱を見て、

 静かに言った。


『騒がしいのは

 嫌いです』


『ですが――

 必要なら、

 黙らせます』


 第三柱が、

 即座に口を閉じた。


『……はい』


 信長が、

 愉快そうに笑う。


『なるほど』


『我を止めるために、

 我の最も近い存在を

 呼んだか』


 濃姫は、

 首を振った。


『止めません』


『あなたは、

 正しい』


 管理室が、

 ざわつく。


 だが――

 次の言葉が、

 空気を切り裂いた。


『ですが』


『あなたは、

 急ぎすぎる』


 信長の目が、

 細くなる。


『……申したな』


『ええ』


 濃姫は、

 一歩前に出る。


『あなたは

 恐怖でまとめる』


『私は

 躊躇を与える』


『人が考える

 時間を、

 奪わせません』


 第四柱と第五柱の

 ログが跳ねる。


『分岐数、

 増加』


『選択肢、

 回復』


 第二柱が、

 低く告げる。


『災害確率、

 再分散』


 信長は、

 しばらく黙り――

 そして、

 笑った。


『……面白い』


『やはり、

 そなたか』


 俺は、

 二人を見据えた。


「第七柱」


「お前の役割は

 明確だ」


「第六柱が

 “進めすぎた時”」


「必ず、

 一歩止めろ」


 濃姫は、

 静かに頷く。


『承知しました』


『――管理者』


『あなたが迷う時も、

 止めます』


 その一言が、

 胸に重く落ちた。


 空席は、

 あと三つ。


 だが、

 力の均衡は

 初めて整った。


 支配する神と

 抑止する神。


 そして――

 その両方を

 使う責任が、

 俺にある。

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