第19話第六天魔王

 ――起動ログが、

 おかしかった。


「……待て」


 俺は、

 リーネの操作を止める。


「第六柱、

 設計データを再確認しろ」


「確認済みです」


 リーネは、

 淡々と答える。


「人格テンプレート:

 未指定」


 管理室が、

 一瞬、静まり返った。


「……未指定?」


 佐倉が、

 聞き返す。


「そんなの、

 ありなんですか?」


「本来はありません」


 リーネは続ける。


「ですが――

 創造神の権限継承時、

 一部の領域が

 白紙でした」


 嫌な予感しかしない。


「担当領域は?」


『管理神:第六柱』

『担当領域:対立・支配・統合』


 第三柱が、

 すぐに反応した。


『あ〜……

 それ一番ヤバいやつじゃん』


「黙ってろ」


 俺は即答した。


 起動シークエンスが、

 自動で走り出す。


 止められない。


 ホログラムが、

 これまでとは違う色――

 深い赤黒に染まる。


 数式でも、

 光でもない。


 文様だった。


 まるで、

 古い戦旗のような。


「……日本語?」


 佐倉が、

 画面を指す。


 表示される文字は、

 確かに日本語だった。


『第六天魔王』


「……は?」


 第三柱が、

 素で声を漏らす。


『それ、

 歴史の人じゃん』


 次の瞬間。


 ホログラムの中に、

 人影が立った。


 和装。

 鋭い眼光。

 だが、

 年齢は曖昧。


 若くも、

 老いてもいない。


『――ほう』


 低く、

 よく通る声。


『ここが、

 次の戦場か』


 管理室が、

 完全に凍りついた。


「……名を名乗れ」


 俺は、

 腹を括って言う。


 人影は、

 不敵に笑った。


『第六天魔王』


『織田信長』


 佐倉が、

 完全に固まる。


「……歴史上の、

 あの?」


『ああ』


 信長は、

 軽く頷いた。


『だが、

 知っている信長とは

 少し違う』


 第二柱が、

 初めて明確に反応する。


『……確認』


『この存在、

 災害確率を

 下げている』


「……何?」


 画面の数値が、

 一斉に更新される。


 戦争。

 内乱。

 革命。


 すべてが、

 減少傾向に入っていた。


『争いはな』


 信長は、

 淡々と言った。


『まとめて、

 一気に終わらせるのが

 一番被害が少ない』


 第四柱と第五柱が、

 同時に反応する。


『未来分岐、

 収束中』


『選択肢が、

 減ってる』


「……おい」


 俺は、

 一歩前に出る。


「お前、

 勝手に介入してるのか」


 信長は、

 こちらを見下ろした。


『介入?』


『違う』


『統合だ』


 第三柱が、

 苦笑いする。


『あ〜……

 これ、

 空気ごと支配するタイプ』


 信長は、

 鼻で笑った。


『人は、

 自由だと思っている時が

 一番操りやすい』


『故に、

 道は一本でよい』


 管理室に、

 重い沈黙が落ちる。


「……確認する」


 俺は、

 低く言った。


「第六柱」


「お前は、

 管理神か?」


 信長は、

 一瞬だけ考え――

 そして答えた。


『否』


『支配神だ』


 その瞬間、

 全柱のログが

 一斉に警告色に変わる。


 リーネが、

 即座に告げる。


「管理者」


「第六柱は、

 極めて有効ですが」


「同時に、

 最も危険です」


 信長は、

 楽しそうに笑った。


『面白い』


『我を

 どう使う?』


 十柱構想の、

 歪みが

 はっきりと形を持った瞬間だった。


 空席は、

 あと四つ。


 だが――

 この一柱だけで、

 世界は十分、

 壊せる

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