第17話第三柱は、軽い

 第二柱の提案ログが、

 まだ管理室の端に残っている。


 空気は重い。

 沈黙も長い。


「……次、いくぞ」


 俺が言うと、

 佐倉が思わず振り向いた。


「え、

 この流れで?」


「止まれない」


 リーネが、

 淡々と操作に入る。


「第三管理神、

 起動準備」


『管理神:第三柱』

『担当領域:文明・社会変動監視』


 扱うのは、

 戦争未満、革命未満、暴動未満。


 人の感情が、

 一番絡む領域だ。


「……ここ、

 一番ややこしくないですか」


「だから、

 性格は軽めに設定した」


 俺は、

 正直に言った。


 ホログラムが、

 ふわりと明るくなる。


 第一柱や第二柱と違い、

 輪郭がやたら人型に近い。


「……見た目、

 寄せすぎでは?」


 佐倉が、

 引き気味に言う。


「“人に近いほど、

 察しがいい”って

 創造神の設計思想だ」


 光が、

 弾ける。


 次の瞬間――


『はーい!

 起動完了っ✨』


 管理室が、

 完全に固まった。


「……え?」


 佐倉の口が、

 開いたまま止まる。


『てかここ、

 思ったより白くない?

 映えなくない?』


「……第三柱」


 俺は、

 頭を押さえつつ呼ぶ。


「状況報告を」


『りょー!

 えっとね〜』


 ホログラムが、

 くるっと回転する。


『今の世界、

 情緒ジェットコースター🎢』


『怒り・不安・同調圧力、

 全部バズり待ち状態!』


「……バズり?」


 第二柱のログが、

 わずかに揺れた。


『そそ!

 小火がバズると大炎上🔥』


『止めるなら

 “正論”じゃなくて

 “空気”ね』


 佐倉が、

 恐る恐る聞く。


「……それ、

 神として大丈夫なんですか」


『え、

 逆に聞くけど

 人間ナメてない?』


 第三柱は、

 即答した。


『人ってさ、

 理屈より

 ノリで動くっしょ』


 管理室に、

 妙な沈黙が落ちる。


 だが――

 表示されるデータは、

 驚くほど正確だった。


 デモ発生確率。

 暴動転化率。

 SNS拡散曲線。


 すべて、

 第二柱の災害モデルと

 噛み合っている。


「……精度、

 高すぎる」


 佐倉が、

 呆然と呟く。


『ありがと〜!

 褒められると伸びるタイプ💖』


 俺は、

 深く息を吸った。


「第三柱」


「君の役割を

 理解してるか?」


『もっちろん!』


 即答。


『私は

 “燃える前に

 空気を変える係”✨』


『バズらせない。

 盛り上げない。

 冷ます』


 その一言で、

 管理室の温度が

 わずかに下がった気がした。


 第二柱が言う

 「小さい災害を起こす」。


 第三柱が言う

 「空気を変える」。


 第一柱は、

 何も言わず整理を続けている。


「……性格、

 バラバラだな」


 佐倉が、

 苦笑する。


「それでいい」


 俺は答えた。


「世界は、

 一つの考えじゃ守れない」


『てかさ〜』


 第三柱が、

 軽い調子で続ける。


『人、

 足りなくない?』


 その一言が、

 胸に刺さる。


 十柱構想の、

 意味がはっきりした瞬間だった。


 空席は、

 まだ七つ。


 そして、

 この調子なら――

 全員まともじゃない。

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