第16話第二柱の声

 第一柱が稼働を始めてから、

 管理室の負荷は確実に下がっていた。


 事故管理の整理は速く、正確で、

 感情の介在は一切ない。


 優秀な機械――

 そう言ってしまえば、

 それで済む存在だった。


「……次を起動する」


 俺がそう告げると、

 佐倉が少し身構えた。


「同じ感じ、

 ですよね?」


「……たぶん」


 だが、

 その“たぶん”に、

 根拠はなかった。


 リーネが、

 淡々と操作を進める。


「第二管理神、

 起動準備に入ります」


『管理神:第二柱』

『担当領域:災害管理』


 地震、台風、噴火、洪水。

 扱う規模は、

 第一柱よりはるかに大きい。


「……これ、

 一番重くないですか」


 佐倉の声が、

 わずかに硬くなる。


「だから、

 感情制御は強めにかけてる」


 俺は答えた。


「判断を急がせないためだ」


 起動シークエンスが、

 進行する。


 だが――

 途中で、数値が揺れた。


「……?」


 リーネが、

 一瞬だけ眉をひそめる。


「感情パラメータ、

 想定より高めです」


「抑えられる?」


「理論上は、

 可能です」


 だが、

 “理論上”だった。


 ホログラムが、

 一度、大きく脈打つ。


 そして――

 声が響いた。


『……ずいぶん、

 壊れかけてるんだね』


 佐倉が、

 思わず立ち上がった。


「……しゃ、

 喋った!?」


 第一柱とは、

 明らかに違う。


 淡々とした応答ではない。

 抑揚があり、

 感情が滲んでいる。


「第二柱」


 俺は、

 慎重に呼びかける。


「状態を報告しろ」


『うーん……』


 一瞬、

 考えるような間。


『正直に言っていい?』


 管理室が、

 完全に静まり返った。


「……続けて」


『この世界、

 無理して保ってる』


 佐倉が、

 息を呑む。


『災害って、

 本来は“逃がすための仕組み”なんだ』


『溜め込みすぎると、

 もっと大きく壊れる』


 画面に、

 地殻データと気象モデルが

 同時に表示される。


 第一柱なら、

 絶対にしない出し方だ。


「……つまり?」


 俺が問う。


『小さい災害を、

 意図的に起こした方がいい』


 その一言で、

 空気が凍った。


「……待て」


 俺は、

 即座に制止する。


「それは、

 “起こさない”のが

 前提の役割だ」


『知ってる』


 第二柱は、

 軽く答えた。


『でも、

 見ないふりすると

 後で死者が増える』


 佐倉の拳が、

 強く握られる。


「……人が、

 巻き込まれる」


『巻き込まれるよ』


 即答だった。


『でも、

 全滅よりは少ない』


 第一柱のログが、

 横で静かに流れている。


 整理。

 分類。

 介入なし。


 あまりにも対照的だった。


「……リーネ」


 俺は、

 低く呼ぶ。


「設計から、

 逸脱してるか?」


「いいえ」


 リーネは、

 静かに答えた。


「第二柱は、

 役割範囲内で

 最適解を提示しています」


「……最適解、

 か」


 俺は、

 深く息を吸った。


 これが、

 管理神の“個性”。


 担当領域が違えば、

 見える世界も、

 答えも違う。


「……判断権限は、

 まだ渡さない」


 俺は、

 はっきり告げた。


「提案として、

 受け取るだけだ」


『了解』


 第二柱は、

 あっさりと引き下がった。


『でもね』


 最後に、

 こう付け加える。


『先延ばしにすると、

 選択肢は減るよ』


 その言葉が、

 管理室に残った。


 佐倉が、

 震える声で言う。


「……神って、

 同じじゃないんですね」


「ああ」


 俺は、

 画面から目を離さず答えた。


「同じだったら、

 まだ楽だった」


 十の空席のうち、

 二つが埋まった。


 そして、

 すでに分かってしまった。


 十柱揃う頃には、

 意見は必ず割れる。


 それをまとめる役が、

 誰なのか――

 答えは、最初から決まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る