第13話圧倒的に人が足りない
管理室の画面は、
いつもより騒がしかった。
警告音は鳴っていない。
だが、
数値の更新速度が異常だ。
「……増えてる」
佐倉が、
小さく呟いた。
世界地図の上で、
黄色のマーカーが
一つ、また一つと点灯していく。
「確定事象じゃない」
俺は言う。
「でも、
この数は異常だ」
リーネが、
即座に補足する。
「観測対象の増加ではありません」
「“管理が必要な可能性”の増加です」
画面を拡大すると、
細かなデータが重なり合っている。
事故未満。
災害未満。
異変未満。
だが、
確実に世界を歪める兆候。
「……全部、
同時進行?」
佐倉の声が、
少し硬くなる。
「はい」
リーネは、
感情を挟まずに答えた。
「対応優先度を設定しても、
処理が追いつきません」
俺は、
椅子の背にもたれた。
頭の中で、
単純な計算をする。
俺が判断できる数。
リーネが補助できる数。
佐倉が観測できる数。
どう足しても、
足りない。
「……神々は、
何人でこれを回してたんだ」
「複数名です」
リーネは即答した。
「創造神単体ではなく、
役割ごとに分業されていました」
「……だよな」
俺は、
画面を見つめる。
ここまで来て、
ようやく分かった。
この仕組みは、
最初から“チーム前提”だ。
今の人数は、
最低限にも満たない。
「……増やす、
しかないか」
その言葉に、
佐倉が反応する。
「増やす……って」
「人を?」
俺は、
答えなかった。
代わりに、
管理室の奥を見た。
これまで表示されていなかった
未使用領域。
そこに、
淡い光が灯る。
「……まさか」
佐倉が、
息を呑む。
リーネが、
淡々と説明する。
「管理構造には、
予備の席が存在します」
「通常は、
起動しません」
「ですが現在、
負荷が閾値を超えています」
ホログラムに、
椅子の数が表示される。
三つ。
五つ。
十。
止まらない。
「……多すぎる」
佐倉が、
呆然と呟いた。
「これ、
全部“人”なんですか」
「いいえ」
リーネは、
首を横に振る。
「人である必要はありません」
その言葉が、
管理室の空気を変えた。
「……じゃあ」
俺は、
ゆっくりと続ける。
「選択肢は、
三つだ」
「一つ。
俺が、
もっと速く判断する」
佐倉は、
何も言わない。
それが無理だと、
もう分かっている。
「二つ。
管理基準を緩めて、
見逃す」
画面の黄色が、
赤に変わる。
「……それは」
佐倉の声が、
低くなる。
「死人が出ます」
「そうだ」
俺は、
否定しない。
「そして三つ」
少しだけ、
言葉を置く。
「管理する側を、
増やす」
沈黙。
管理室の静けさが、
やけに重い。
「……俺たちみたいなのを、
増やすってことですか」
佐倉が、
ようやく口を開く。
「正確には、
“佐倉みたいな存在”だ」
リーネが、
補足する。
「観測感度が高く、
世界の歪みに気づける者」
「……そんな人、
簡単にいませんよ」
「ええ」
リーネは、
即答する。
「だからこそ、
危険です」
俺は、
拳を握った。
分かっている。
これは、
単なる人手不足じゃない。
世界の裏側を、
何人に見せるか
という問題だ。
「……選ばないと、
世界が先に壊れる」
俺が呟くと、
佐倉は静かに言った。
「……選んだら」
「普通の人、
戻れないですよね」
「ああ」
即答した。
「戻れない」
管理室の画面に、
赤い文字が浮かぶ。
『管理遅延:臨界』
時間は、
残っていない。
俺は、
ゆっくりと息を吸い、
決断を口にした。
「……次は、
候補を探す」
それが、
どれだけ重い選択か。
この時点では、
まだ誰も理解していなかった。
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