転生悪役令嬢。最推しを祝福するために、婚約破棄されました。泣いていいかしら?

綾野あや

第1話


「ロザリンド、君との婚約を破棄させてもらう」


 卒業パーティの舞踏会にて、イリアス様が告げる。

 あぁ、この台詞。何度、聞いてもカッコいい。

 力強く手を広げる様、真っ直ぐな瞳。その全てがイリアス様を象徴するようだ。

 何度も繰り返しみたゲームのスチルを、リアルで体験できるなんて思っても見なかった。

 そして、私は――静かに頷いた。

 

「わかりましたわ」


 私は頷いて踵を返すと、パーティー会場を後にした。


 カツ、カツ、カツ


 ヒールの音が大理石の廊下に響き渡る。

 最初は、落ち着きを払うために優雅な音を立てていた。


 カッ、カカッ

 

 けれど、次第に抑えきれない感情が足を急かす。

 胸がざわつく。かきむしりたいような衝動に耐えながら、私は必死になって、出口へ向かう。

 出立の準備はすでに終えていた。あとは馬車に乗って、国境を目指すだけだ。


 父と母には、朝の段階で伝えてある。18年間、育ててもらったけれど、私が「私」だと気づいてからは1年半くらいだ。

 それでもやっぱり、離れるのは寂しい。

 けれど、これが私の考えた「ロザリンドルート」なのだ。彼女の「命」と私の「幸せ」を混ぜ合わせた結果だ。申し訳ないけれど、娘のわがままをどうか聞いてほしい。


 そして、イリアス様。

 もう二度と見ることができないのだと思うと、苦しくて、痛くて、吐きそうだ。

 どうして、と思う。

 なんで、隣に立っているのが私じゃないのか。他のルートをやっても、貴方にたどり着いてしまうくらい、大好きで、愛しくてたまらない人。

 アクスタも缶バも祭壇を作れるくらいかき集めて、誕生日を盛大にお祝いしたことだってある。

 毎日、考えてた。365日ずっとイリアス様のことで頭がいっぱいだった。


 それくらい――貴方は私の人生なのだ。


「お嬢様、本当によろしいのですか?」


 老執事が、玄関に横付けした馬車のドアを開けながら尋ねてくる。

 私は頷くと、早く扉を閉めるように急かした。

 ギシリと馬車が揺れて、馬のいななきと共にゆっくりと動き始める。

 私は大きく息を吸うと、そのままズルズルと安堵のため息を吐きながら椅子に倒れ込んだ。


「終わった……」


 馬車の中とはいえ、大声を出すのははばかられる。

 けれど、これぐらいは許してほしい。

 緊張感が抜けても、手が震えて止まらずにいる。握りこぶしを作ることで、抑えようとしても上手く制止が効かない。


「もう、いいのよ」

 

 ロザリンド・カヴァニスは、悪役令嬢の役をようやく降りることができるのだから。



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