第5話 夢と銃声と、朝の最低案件

三日月が浮かぶ夜。

ヤンキー高校の屋上。


風が強い。

フェンスが、ギィ、と鳴る。


そこに――

制服を着た、顔の見えない男子生徒が立っていた。


そして、その眉間に向けられているのは――

拳銃。


持っているのは、スティーブン先生だった。


生徒「……ねえ、先生」


スティーブン「なんだ」


生徒「なんで人はゴキブリは殺していいのに、

人は殺しちゃダメなの?」


スティーブン「……」

スティーブン「人の命の重さを、知れ」


生徒は、くすっと笑った。

生徒「じゃあさ」

生徒「僕が殺したのは、人じゃなくて――

ゴキブリだったのかな?」


スティーブン「……何を言ってる」


生徒「だってさ」

生徒「すごく、軽かったよ」


一瞬、風が止まる。

そして――

ドン。

銃声。


夜の学校に、乾いた音が響いた。

「はっ……!」

スティーブン先生は、勢いよく飛び起きた。


場所は屋上じゃない。

ボロいアパートの一室。


天井、シミ。

床、散らかった空き缶。


スティーブン「……夢か」

胸に手を当てる。

心臓が、やたらとうるさい。


スティーブン「……クソ」

枕元を探り、

エロ本を一冊、枕の下に押し込む。


表紙には

《元国民的アイドル、ついに解禁》

みたいな、最低な見出し。


スティーブン「……」

もう一度、布団に潜る。


――翌朝。


スティーブン「……」

目覚める。

スティーブン「……最悪だ」

パンツが、完全に終わっていた。


スティーブン「夢と現実の区別つかねえの、

大人として終わってんな……」


シャワーを浴びながら、

さっきの夢を思い出す。


生徒の声。

あの言葉。


スティーブン「……軽かった、か」

蛇口を強く締める。


スティーブン「クソが」


その頃。


ヤンキー高校・校長室。

教頭が、校長の前に立っていた。


教頭「昨日来たあの教師なんですが」


校長「スティーブン先生か」


教頭「はい。もう色々とアウトです」


校長は、静かに紅茶を飲む。

校長「ふむ」


教頭「生徒を殴る、銃を見せる、新聞部に喧嘩売る」


校長「ほう」

教頭「昨日だけでこの量です」


校長「……で?」


教頭「クビにしてください」


一瞬、沈黙。

校長は、窓の外を見る。

校長「君は、この学校をどう思う?」


教頭「……正直に言っていいですか」


校長「どうぞ」


教頭「地獄です」


校長「はは」


教頭「笑い事じゃありません」


校長「だがね」

校長は、ゆっくりと振り向いた。


校長「今までの教師で、この地獄に“効いた”者はいたかね?」


教頭「……」


校長「目には目を。歯には歯を。毒には、毒を」


教頭「……つまり」


校長「彼は、この学校に必要な“毒”かもしれん」


教頭「……最悪だ」


同じ頃。

登校中のスティーブン先生。

スティーブン「……」


ふと、背後に視線を感じる。

振り向く。

誰もいない。


スティーブン「……気のせいか」


だが、

校舎の影。


そこに、白井がいた。


白井(夢で撃ってたね)

白井(……やっぱり)

白井は、スマホにメモを打つ。


《銃声=過去》

白井(先生)

白井(まだ、終わってないよ)


教室の扉が、開く。

スティーブン先生、入室。

スティーブン「よーし」


教頭「何が“よーし”だ」


スティーブン「今日も授業、始めるぞ」


教頭「頼むから、夢の続きは持ち込むなよ……」


スティーブンは、黒板に文字を書く。

《人の命の重さ》


教頭(嫌な予感しかしねえ)


そして、

教室の隅で白井が、静かに笑った。


白井「……第二手前、か」

この教師は、

まだ気づいていない。


自分がもう、

ゲームの盤上に立っているということに。

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