第4話 俺、婚約しました!

「我が公爵家は、初代国王の弟が興した家ということもあって、代々『国を正常に動かす』という大義の下、王家に身内を送っているわ」

「だが、生まれてくる子が、必ずしも女性とは限らないだろう?」



 現に、我が辺境伯家は俺を含め、三人の子どもが全員男だ。


 そんな都合よく、毎回女の子が生まれるわけが――。


 その時、アリアンヌの口から、とんでもない事実が告げられた。



「その場合は、親戚筋から優秀な子を選んで、公爵家の子どもとして無理矢理養子にするの」

「っ!」



 そ、そんなことが……。



「そして、公爵家にとって『不要』と判断された子どもは、奴隷として他国に売り飛ばすわ」

「っ!!」



 その瞬間、俺の脳裏に悪役令嬢の末路が蘇る。


 婚約破棄された悪役令嬢はその後、公爵家に隠れて人身売買を行い利益を得ていたことが発覚し、勘当された末に国外追放。


 だが、もしも。


 もしもあの罪が、彼女個人のものではなく、公爵家の罪を押し付けられた結果だとしたら……?



「……馬鹿げている」

「ロイ!」



 アリアンヌから叱責が飛んだが知ったことか。


 何が公爵家の務めだ。


 この国を実質的に支配したいがための、ただの口実じゃないか。


 思惑通りにいかなければ勘当し、罪を着せ、国外追放――。



「推しの人生を……娘の人生を、なんだと思っているんだ」

「ロイ……?」



 これ以上、彼女をこの場所に縛り付けておくわけにはいかない。



「……どうしたら」

「えっ?」

「どうしたら、公爵家にとって有利になると思う?」



 辺境伯家に嫁ぐことが利益にならないというのなら、どうすればいい?


 どうすれば、公爵家を――アリアンヌを“道具”としか見ていない公爵夫妻を、納得させられる?


 真剣な表情で問いかける俺を見て、アリアンヌは息を呑み、顎に手を添えて考え込む。



「そうね……」



 必死に考え込む推しも可愛い。


 ちなみに今回の面会は、幼馴染という関係性から特例で許された時間制限付きのもの。


 自由がないどころか、監視されている感覚すらある。


 応接室には俺とアリアンヌしかいないのに。


 刑務所か、ここは。


 いや、下手をすればそれ以上に厳しい場所かもしれない。


 やがて、考え込んでいたアリアンヌが口を開く。



「多分、王族以外との婚約は許さないと思う」

「それは、話していて嫌というほど理解した。うちも一応、初代国王の次男が興した家で、それなりに由緒はあるんだけどな」

「……確かに、そうだったわね」

「だが俺は、アリアンヌと婚約したいんだ」

「っ! あんた、見ないうちに何があったの? そこまでして、私と婚約したいの?」

「あぁ、したいね」



 推しの破滅を回避するためなら、推しを妻に迎えてやる!


 ……あれっ、冷静に考えると俺、とんでもなく大胆なことをしている気がするが!


 今さらその事実に気づいて動揺していると、アリアンヌが一筋の可能性を口にする。



「でも……もし、許してくれるとしたら」

「許してくれるとしたら?」



 それは、俺にとっても予想外の条件だった。



「あなたが、近衛騎士に選ばれたら……納得してくれるかもしれない」

「近衛騎士!?」



 近衛騎士。それは、王族護衛に特化した、選ばれしエリート中のエリートである。



「それくらいしないと、お父様もお母様も首を縦に振らないかもしれないわ」



 一瞬だけ辛そうな表情を浮かべたアリアンヌは、すぐに取り繕うようにすまし顔で俺を見る。


 その瞳には、どこか諦めの色が滲んでいた。



「ほら、これで諦めて……」

「分かった」

「えっ?」



 推しの願いを叶えずして、何がファンだ! 何が次期辺境伯当主だ!


 これしきのこと、叶えられなくてどうする!



「お前の言う通り、近衛騎士になってやる。だから、俺と婚約してくれ」

「……分かったわ。その代わり、十五歳までに近衛騎士になれなかったら、婚約破棄だから」

「あぁ、それでいい」



 こうして俺は、条件付きで推しと婚約した。

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