第2話 俺、頑張ります!
「ロイ。今まで『婚約なんて嫌だ』って……それも、アリアンヌ嬢との婚約は嫌だと言っていたお前が、突然どうした?」
眉を顰める父上の言葉に、俺は思わず言葉を詰まらせる。
確かに今までの俺は、自由が欲しくて、婚約なんて縛られるようなものは真っ平御免だと思っていた。
だが、今は違う。
「父上。信じられないかもしれませんが、熱に魘されたことで、ようやく目が覚めたのです。次代の辺境伯当主として、国境を守る辺境伯家がこれからも最前線でこの国を守り続けるためには、建国当初から国の中枢を担ってきた公爵家と、より一層関係を深める必要があると悟ったのです」
日夜、隣国との小競り合いに明け暮れている我が家は、その特殊な立場なゆえに、代々宰相として国を支えている公爵家との交流が深い。
だからこそ、その関係をより強固なものとし、国防を盤石にするためには、婚約という形が最も手っ取り早い。
貴族として生まれた以上、いずれは誰かと結ばれなければならない。
それが家の繁栄、ひいては国の存続へと繋がるのだから。
――まぁ、本当の理由は推しを救うためなのだけど。
次期辺境伯当主として、もっともらしい理由を並べて婚約を申し出る俺を見て、驚いて目を見開いた父上は難しい表情をするとしばらく逡巡する。
「……確かに、ロイの言うことは一理ある」
「では!」
「だが、それをあちらが素直に聞いてくれるかどうか……」
「あっ」
“聞いてくれるか”という言葉の意味を察し、俺は一瞬言葉に詰まる。
なにせ、俺とアリアンヌの相性は……
父上の懸念に同調するように、心配そうに眉を寄せた母上が頬に手を当てて小首を傾げる。
「そもそも、アリアンヌちゃんがロイとの婚約を認めるかしら。こう言っては何だけど……あなたたち、相性が悪いじゃない」
「そう、ですね」
そう。俺とアリアンヌの相性はとことん悪い。
自由を愛するあまりワガママ放題の俺と、公爵令嬢としての誇りが異常なくらい高いアリアンヌ。
どう考えても、相性は最悪だった。
だがそれは、前世の記憶が戻る前の話。
「ですが、そこは私が頑張って説得します!」
「「説得?」」
声を揃えた両親に、俺は力強く頷く。
「はい。次期辺境伯として、生涯の伴侶一人説得できずして、どうするのですか!」
そうだ。次期辺境伯当主として、この程度の壁で躓いているわけにはいかない!
なにより、推しの破滅を回避するためには、まずこの道を選ぶしかない!
あまりにも直情的で脳筋な発想に、言葉を失う母上の傍で、今まで眉を顰めていた父上の口角がゆっくりと上がる。
「アハハハッ! さすが我が息子だ! その心意気、気に入ったぞ!」
「あなた!」
母上の叱責をものともせず、一頻り笑った父上は、そっと母上の肩に手を置いた。
「いいじゃないか! 今まで婚約や貴族のしがらみから逃げていたロイが、覚悟を決めたんだ。その覚悟を、信じてやろう!」
「あなたが言うのであれば……」
満面の笑みを浮かべる父上に、母上は心底呆れたようにため息をつき、それでも仕方なさそうに肩をすくめた。
そういえば、父上は学生時代、当時伯爵令嬢だった母上に一目惚れし、猛アタックの末に母上を口説き落とし、両家を説得して結婚したのだった。
なるほど、血は争えないらしい。
そんなことを考えていると、父上が病み上がりの俺の背中を、バシッと力強く叩いた。
「痛っ! 父上! 私は病み上がりで……」
「ロイ! 次期辺境伯当主として公爵令嬢を説得すると言ったんだ! しっかりやってこい!」
父上の迫力ある笑顔に背中を押され、思わず笑みを浮かべた俺は大きく頷く。
「はい!!」
こうして数日後。
俺は推しの破滅を回避するため、先触れを送った上で、エスティカード公爵家を訪れた。
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