悪役令嬢の幼馴染に転生した俺は、断罪回避の導き手になる

温故知新

第1話 俺、婚約したいです!

「この世界って、もしかして……!」



 屋敷でうなされながら寝込んでいた俺は、目を覚ました時に理解してしまった。


 ――ここが、前世で読んでいたあの小説の世界だということを。


 そして俺、ロイ・クラファンスは、悪役令嬢アリアンヌ・エスティカード公爵令嬢の幼馴染であるという事実も。



「まさか俺が、小説の世界に転生するなんて!」



 しかも、推しキャラの幼馴染という最高のポジション!


 ……正直、小説のヒーローであり王太子であるディロイス・フォン・エスティルカになりたかったけど。


 だって俺、小説にすら名前が出てこない、いわゆるモブキャラなのだから。


 そんなことを思いつつ、嬉しさのあまり飛び上がりそうになったその瞬間、俺は小説の内容を思い出して顔面蒼白になる。



「そうだ! このままいくと、アリアンヌが断罪される!」



 今から十年後。十八歳になったアリアンヌは、王家主催の夜会で、小説のヒロイン――聖女エリナ・ルーファン男爵令嬢に対する悪行を暴かれる。


 悪質な嫌がらせ……いや、あれはもう殺人未遂だ。


 なにせ、アリアンヌはエリナを荒くれ者達に拉致した挙句、王都外れの崖から馬車ごと突き落とそうとしたのだから。


 そのことが夜会で王太子によって公にされたことで婚約破棄だけでなく国外追放という、救いのない末路を辿ることになった。



「とはいえ、今はまだ王太子の婚約者になっていないはず!」



 アリアンヌが王太子と婚約するのは、王太子とアリアンヌが十歳の時。


 俺も、アリアンヌも、王太子も、今はまだ八歳だ。


 ――今なら、まだ間に合う!



「幸い、我が家は辺境伯家でアリアンヌの家は公爵家。家格は釣り合っているはずだ!」



 待ってろ、アリアンヌ!


 俺が断罪回避の導き手となって、必ず君を救ってみせる!


 ベッドから起き上がり、拳を握って決意を固めた時、部屋のドアがノックされた。



「入れ」

「失礼いたします」



 そう言って入ってきたのは、我が家の執事と侍女、そして両親だった。



「「ロイ!!」」

「父上、母上」



 部屋に入ってきた父上と母上は、心配そうな表情でベッドサイドの椅子に腰を下ろす。


 こうして見ると、父上は騎士に相応しい大柄な体格で、黙っていれば『王国最強の剣』と称される威厳に満ちた人だ。


 今は眉を下げ、心配そうにこちらを見つめているから、ずいぶん親しみやすいけど。


 そして母上は、人妻で子どもがいるとは思えないほど麗しく美しい人だな。


 怒らせると本当に怖いけれど。


 普段、騎士たちを𠮟咤激励している父上ですら震え上がるほどに。



「父上、母上、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」



 その言葉に、両親と、傍に控えていた侍女と執事が一斉に目を見開いた。



「ロイ。あなたが、そんな落ち着いた言葉遣いをするなんて……ようやく、次期辺境伯としての自覚が芽生えたのね」

「そうだな。辺境伯当主として本当に嬉しいぞ」



 ――そう言えば俺、前世の記憶が戻る前は、次期辺境伯当主とは思えないほど、やんちゃな言葉遣いと態度で、家族や使用人たちを困らせていた。


 これからは改めないといけない。


 だって今の俺には『推しを助ける』という崇高な目的があるのだから。


 そのためなら、言葉遣いも態度も、貴族らしいものに変えなければ。



「それより父上。お願いしたいことがあります」

「なんだ。言ってみろ」



 なぜか目を潤ませている母上の隣で、眉を顰める父上に俺ははっきりと告げた。



「俺……いえ、私はアリアンヌ公爵令嬢と婚約がしたいです」

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