第2話 悪魔と天使のガチ喧嘩


 新たな世界の洗礼はもういいだろう。いいかげん空に向けてた尻を地面に落ち着ける。


 俺の尻が見てた……もとい俺が見てる空では、悪魔と天使がいまだ火花を散らす。本物の火花を。


「ウザッてぇったりゃありゃしねぇー! いい加減アタシの視界から消えなッ!」

「あなたこそ目障りなんですよッ! わたくしの世界にアナタは必要ありません!」


 さっきまで頭の動きだけでランスを避けていた悪魔が、今は左前腕で受け流している。同時に、右の掌からは黒い弾をいくつも飛ばしていた。

 左翼のみでその球状をいなす天使の反応も悪くない。そして、右手のランスは相変わらず頭だけを貫こうと狙い続けている。

 どちらも殺意マンマンだ。


 空中で二つの影が弧を描き、金色こんじきと真紅の髪がたなびく。見上げる俺は両手を口元に添え。


「ねぇーもうやめようよぉおー。喧嘩なんてよくないよぉおーー。俺をなにか誘うんじゃなかったのぉおおおーーー!」


 精一杯の大声を張り上げた。

 俺はそもそも聞きたいのだ。ここはどこで、なんで二人が来たのかなど色々と。

 天使になれだの悪魔になれだの魂だの言っておいて、俺そっちのけで喧嘩してないでほしいよ。ホントにもう。


 俺の声が届いたのかは分からない。だがそれを合図にしたかのように、ここで悪魔が動いてみせる。

 貫きに合わせ左手で長槍を右側に大きく弾くと、そのまま体をひねった。その流れでくるりと回転しながら一気に距離を詰め、渾身の左蹴りを天使の脇腹へめり込ませた。


「グゥエッオオゥゥウ…………」


 鈍い音と共に反対側の雲が散る。そして、天使からはよほど想像もつかない声が漏れた。

 俺は顔を歪め「痛そ……」と思わず口にする。


 悪魔は笑みを浮かべ、


「クックックッ、今のは効いただろ~? 見事に入ったもんな。てめぇーがアタシに敵うわきゃねぇーんだよ」


 首を伸ばし、目を見開きながら言葉を吐き捨てた。


 天使は押さえる脇腹から手を離すと、スゥーと大きく息を吸い、


「ぜぜ、全然痛くありませんけど? グレンデイルの吐息かと思いましたわ」


「んだとコノ野郎! アタシがあんな奴より弱いってのかよッ! やせ我慢してんじゃねぇーよバカが」


「フンッ、それを証明して差し上げますわ」


 強がってるよね絶対に……そんな考えを微かに抱くと、再びランスを構えてみせる天使。

 どう見てもクリーンヒットに見えた俺には、天使のことが少し心配になった。


「てりゃぁああああああッ!」


 そんな心配をよそに天使の速突きが始まる。先程よりも風切り音が凄まじく俺の耳まで届く。

 しかし悪魔が余裕とばかりに煽り散らし、


「はいはいバーーーカ、バカの一つ覚え。同じことの繰り返し。当たるかってんだよ、このマヌケが!」


 そう発すると、またもや右に大きく弾き、回転をし始めた。

 全くの同じ状況に「見たくない!」と俺は顔を背けそうになった――が。

 

 今回は様子が違う。

 天使も回転をし始めているのだ。右腕のみで扱ってた武器を、弾かれた方向の左手で引き寄せ、ランスごと大きく体を回す。

 白い羽根で悪魔の視界を一瞬遮ると、ランスの柄を、遠心力込みで悪魔の脇腹に叩き込ませてみせた。


「ガガッフェゴァグフググァ……ッ」


 これまた、女の子から聞いたことない声が漏れ出る。


 その衝撃波たるや凄まじく、周りの木々がしなる、たわむ。

 これはイタイ……俺の胸も熱くなる。目を細め、自分が喰らった訳でもないのに、俺は自然と脇腹に手を置いていた。

 体の回転と、武器での重み。そこに遠心力までをフルに使った一撃が痛くないはずがない。


 声高に天使が喜びを見せている。


「オホホホホ、どうかしらどうかしら。今の贈り物は。天使からの祝福ですよ? えっ? 喜んでもらえましたでしょうか」


 得意げに金髪をかき上げる。美しいはずなのに、なめらかにすべる髪がなにか恐ろしくもさえあった。

 そしてさらに恐ろしいのが、左脇を両手で包み込む悪魔を――横目でジトリと見下げる天使の碧き瞳。


 こんな目付きで女の子に見られたら、俺一生立ち直れないかも……。


 押さえていた脇腹から手を離すと、悪魔がだらりと顔を覆い隠していた紅蓮の髪を大きく振り上げる。

 ポニーテールが弧をえがき、頭を起こして言い放つ。


「じょ……冗談だろ。今のが祝福だって? ニ、ニーズヘグンのクソのがまだ祝ってやがるぜ」


「なな、なんですってーッ! 清らかなる祝福をあんなと一緒にするなんて!」


 ……最初に二人のクロスストレートパンチから始まり、口喧嘩や、今の攻防を見てて分かったことがある。

 ……いや、薄々は勘づいていたけども。


「この二人。負けず嫌いだ……。そして、仲が悪い……」


 天使があー言えば、悪魔がこー返す。悪魔が殴れば、天使も同じ所を殴り返す。

 絶対に痛いはずなのに、絶対に認めない――凄まじき意地の張り合いだ。



 二人の果てしないプライドのぶつけ合いにほうけていると、どこからか非現実を現実に引き戻す声がする――


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