第1章:過去の記憶
夜だった。
雨が石畳を激しく叩き、暗い路地の奥で慌ただしい足音が反響していた。
「逃がすな! 裏切り者を止めろ!」
将校の一人が叫んだ。
広場にそびえる中央塔の頂で、雨にずぶ濡れになった男が両腕を広げ、力の限り叫んだ。
「ペルミアとアルビアの自由のために!」
その直後、爆発が街を揺るがした。
男は自らの命と引き換えに、塔と共に消えた。
三年後
夜明けの光は、ヴェルガリスを覆う煙の中をかろうじてすり抜けていた。
爆破事件の後、いまだ修復中の塔は足場に囲まれ、まるで檻のように立っている。作業員たちは埃にまみれ、声を出さずに働いていた。まるで街を目覚めさせることを恐れているかのように。
ダリアンは、いつもと同じ道を、両手をポケットに入れて歩いていた。
空のままのショーウィンドウ、閉ざされた露店、壁一面に貼られたグラン・パルティのポスター。その間を行き交う人々の顔は皆同じだった。疲れ切り、光を失い、恐怖に慣れきった表情。
「この世界はクソだ……」
彼は小さく呟いた。
「皆同じ顔、同じ絶望。何も変えられない。党がすべてを支配している」
その言葉を、彼は三年間、繰り返し続けてきた。自分に向けてなのか、街の反響に向けてなのかも分からないまま。
ダリアンは党の技術学校で工学を学んでいた。それは生き延びるための手段であって、生きるためのものではなかった。毎日そこから、幼い頃から育った同じ地区にある小さなアパートへ戻る。
風が紙屑と埃を巻き上げる。
拡声器のケーブルが、電柱の間に金属の根のように垂れ下がっていた。
突然、甲高いノイズが静寂を破り、プロパガンダ・システムの無機質な声が街に響き渡った。
「重要なお知らせ。党は本日午後、地区倉庫にて生活最低限の配給品および器具を配布します。秩序を保ち、係員に協力してください」
誰一人、足を止めなかった。
誰も反応しなかった。
いつもの声だった。
ダリアンも顔を上げることなく歩き続けた。そのメッセージが、自分に向けられたものであるかのようにすら感じなかった。
建物に着くと、管理人の女性が踊り場から疲れた仕草で声をかけた。
「今日は配給がありますよ、坊や。忘れないでね」
「ありがとう」
彼は視線を向けることなく答え、階段を上った。
アパートの中は、埃と金属の匂いがした。
机の上には工学書が散らばり、半分洗われたままのカップが残っている。
彼は屋根裏へ続く梯子を上り、点検口を押し開けた。
そこだけが、父の死後も変わらず残っている場所だった。
空気は冷たく、天窓から差し込む光が、宙に舞う塵を照らしていた。
いつもの隅で床板を持ち上げ、過去の名残をしまってある古い金属箱を取り出した。
床に座り、箱を開ける。
中には、父と一緒に写った写真、一本のドライバー、E・Vの刺繍が入ったハンカチ、そして錆びついた二つの歯車が入っていた。
彼はそれらを、まるで遺物のように、静かに見つめた。
父――エリックは四年前に死んだ。
それでもダリアンは、彼がどんな人間だったのかを完全には理解できずにいた。声、忠告、眠る前の沈黙は覚えている。だが、なぜ死んだのかは知らない。誰もそれを語ろうとしなかった。
その時、彼は見慣れないものに気づいた。
一冊の本だった。
自分がここに置いた覚えはない。
屋根裏にしては、あまりにも綺麗すぎる。
濃い革張りの表紙には題名がなく、黄ばんだページが光を反射していた。
両手で取った瞬間、かすかな震えを感じた。
開くと、最初のページに手書きのメモが挟まれていた。
――
「まず最初に、この本を読む前によく考えてほしい。
ここには希望があるかもしれない。絶望があるかもしれない……
あるいは、君の終わりが書かれているかもしれない」
――
文字は落ち着いており、慎重に書かれていた。
ダリアンは何度も読み返し、この警告を書いた人物を思い描こうとした。
次のページには、署名があった。
――
「私の名はエリアン・マレク。
これは私の物語であり……血と戦争によって築かれた体制の物語だ」
――
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