第10話 魔獣の旗印と、断罪者の刃(前編)
森は、変わり始めていた。
それは破壊ではない。
侵食でもない。
――統合だ。
「……集まり始めている」
セラフィナが、森の奥を見つめて呟いた。
低い唸り声。
重い足音。
木々の間を走る影。
一体、二体ではない。
「魔獣が……寄ってきている?」
グラドが、思わず身構える。
だが――
殺気はない。
そこへ、一歩前に出たのは、
巨大な黒銀の狼――
「恐れるな」
低く、森を震わせる声。
「我が名の下に集う者たちだ」
ヴァルグリムの背後から、次々と姿を現す魔獣たち。
鋭角の岩を背負う《岩甲獣》。
炎を吐く《紅焔猪》。
霧の中を歩く《影鹿》。
いずれも、単体で村一つを滅ぼしかねない存在。
「……これが……魔獣勢力……」
セラフィナが、息を呑む。
ヴァルグリムは、カイを振り返った。
「人の子――いや、《主》よ」
その呼び方に、カイは一瞬だけ戸惑い、そして頷いた。
「森は、神に管理されてきた」
ヴァルグリムは続ける。
「理不尽な《淘汰》
意味なき《裁定》
我らは、ただ“駒”だった」
蒼い角が、淡く光る。
「だが――
貴様は、神を拒んだ」
その言葉に、魔獣たちがざわめいた。
「拒んだだけだ」
カイは、正直に言った。
「仲間を消されるのが、嫌だった」
沈黙。
次の瞬間――
ヴァルグリムが、地に伏した。
「……っ!?」
巨大な魔獣王が、頭を下げた。
「ならば、十分だ」
森が、凍りつく。
「我らは、貴様に従う。
支配ではない――共存の旗印として」
――《蒼角魔狼王ヴァルグリム》
――《魔獣勢力の代表権限を譲渡》
カイの視界に、初めて見る表示が走る。
「……勢力……?」
「群れは、主を必要とする」
ヴァルグリムは、静かに言った。
「貴様は、選ばれたのではない。
選んだのだ」
カイは、拳を握った。
「……守る。
魔獣も、人も」
その言葉に――
魔獣たちが、一斉に咆哮した。
森が、味方になった。
⸻
だが。
その空気を、切り裂く殺気があった。
「――いい眺めだな」
乾いた声。
一歩、また一歩。
木々の間から現れたのは――
長い外套を纏い、大剣を背負った男。
「……ガルム……!」
セラフィナが、歯を噛みしめる。
《賞金稼ぎエース》
《断罪者》ガルム・レイド。
「魔獣王を従え、勢力を作る」
ガルムは、楽しそうに笑った。
「まるで、魔王だ」
「違う」
カイは、前に出る。
「俺は、仲間と生きたいだけだ」
「――そう言うと思った」
ガルムは、外套を脱ぎ捨てた。
「だからこそ、殺し甲斐がある」
大剣を、地に突き立てる。
どん――!
地面が、陥没した。
「今日は、邪魔はいらねぇ」
ガルムは、ヴァルグリムを一瞥する。
「魔獣王。
今回は見逃す」
ヴァルグリムが、低く唸る。
「……人の刃よ。
主に、刃を向けるか」
「向けるさ」
ガルムは、迷いなく言った。
「それが、俺の生き方だ」
視線が、カイに戻る。
「一対一だ。
逃げるなよ、《権限保持者》」
――《警告》
――《ガルム・レイド》
――《危険度:極高》
カイは、深く息を吸った。
「……分かった」
セラフィナが、叫ぶ。
「カイ!!
まだ、権限の反動が――!」
「承知の上だ」
カイは、振り返らない。
「これは……俺の戦いだ」
ヴァルグリムが、一歩下がる。
「行け、人の子」
蒼い瞳が、鋭く輝く。
「生きて戻れ。
それが、主の条件だ」
ガルムが、大剣を肩に担ぐ。
「来い」
次の瞬間――
ぶおん!!
大剣が、風を裂いた。
カイは、間一髪で避ける。
だが――
衝撃波が、背後の巨木を粉砕した。
「……っ!!」
(重い……!
速い……!)
「どうした?」
ガルムが、笑う。
「魔獣王を従えた割に、
まだ“人間”だな」
「……それでいい」
カイは、地を蹴った。
――《支配権限・第一段階》
――《身体補助・限定起動》
視界が、研ぎ澄まされる。
剣の軌道。
重心。
殺意の向き。
「……見える」
「ほう」
ガルムが、目を細めた。
「少しは、楽しめそうだ」
刃と刃が、ぶつかる。
――金属音が、森を裂いた。
火花が散る。
「……!」
(まだ……押されている)
ガルムは、強い。
技も、覚悟も、完成されている。
だが――
(俺は、一人じゃない)
背後には、仲間がいる。
守るものがある。
カイは、踏み込んだ。
「――まだ、終わらない!!」
ガルムが、歯を見せて笑った。
「いい顔だ」
剣を振り上げる。
「それでこそ――
《決着》をつける価値がある!」
二人の影が、激突する。
勝敗は――
まだ、決まらない。
⸻
森の奥で、
神の視線が、静かに注がれていた。
「……魔獣勢力、形成確認」
「……権限保持者、加速中」
次なる一手は、すでに準備されている。
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