第8話 三つ巴の戦場と、《権限》の扉

――轟音。


ガルム・レイドの大剣が振り下ろされた瞬間、

地面が裂け、土砂と衝撃波が森を薙ぎ払った。


「散開ッ!!」


カイの叫びと同時に、仲間たちが跳ぶ。


「ぷるっ!!」


ルゥが前に出て、完全硬化。

だが――


ぎぎぎっ……!


大剣が、装甲を削った。


「……硬ぇな。だが――」


ガルムが笑う。


「“壊せない”わけじゃない」


その直後。


「――執行継続」


神の使徒が、無機質に告げた。


翼が広がり、金色の光輪が空に浮かぶ。


「神性演算・攻撃式 《裁定》」


空から、無数の光槍が降り注ぐ。


「くっ……!」


セラフィナが剣で弾くが、

一撃一撃が、常識を超えた威力だ。


「《主》! このままじゃ――!」


グラドが叫ぶ。


「分かってる!」


カイは、歯を食いしばる。


(敵は二つ……いや、違う)


ガルムは使徒を見ていない。

使徒も、ガルムを“対象外”としている。


――だが、戦場は同じだ。


「ルゥ、防御優先!

 グラド、バル、ノト――俺を守れ!」


「了解!!」


ゴブリンたちが、信じられない動きを見せた。


連携。

死角の把握。

即時判断。


その瞬間、カイの視界に表示が浮かぶ。


――《仲間:グラド》

――《進化条件:集団指揮・高危険戦闘》

――《進化を提案》


「……進化、だと?」


だが迷っている暇はない。


「承認!」


――《進化開始》


グラドの体に、赤黒い紋様が走る。


「ぐ……おお……!」


背が伸び、筋肉が膨張。

知性の光が、瞳に宿る。


――《進化完了》

――《上位種:ゴブリン・ウォーロード》


「《主》……指示を」


声が、はっきりと変わった。


「バル、右! ノト、牽制!

 俺が前に出る!」


統率された動き。

もはや“雑魚”ではない。


「……ゴブリンが、進化だと?」


ガルムが、愉快そうに笑った。


「面白い……ますます欲しくなった」


その時――


「――対象修正」


使徒の瞳が、金色から深い光へ変わる。


「ゴブリン個体、権限影響下と判定。

 削除対象に追加」


光槍が、ゴブリンたちへ向く。


「させるか!」


セラフィナが前に出た。


だが――


「……っ!?」


神性の圧に、動きが止まる。


「人間騎士。

 忠誠の書き換えを確認」


使徒の声が、冷たくなる。


「逸脱率、上昇」


その瞬間。


――《仲間:セラフィナ・アルディス》

――《進化条件:神性干渉・自己選択》

――《進化を提案》


「……セラフィナ!」


カイが叫ぶ。


彼女は、一瞬だけ微笑んだ。


「迷いは……もうないわ」


「承認だ!」


光が、彼女を包む。


白銀の鎧が、再構成される。

背に、淡い光翼が展開する。


――《進化完了》

――《称号:境界騎士バウンダリー・ナイト


「人類と、魔の境界を歩む者……!」


セラフィナの剣が、神性の光槍を弾いた。


「神であろうと――

 私の《仲間》を裁く権利はない!」


「……異常進化」


使徒の声に、初めて明確な警戒が混じる。


その隙を――


「逃さねぇ!」


ガルムが、地面を蹴った。


――轟!!


神の使徒へ、大剣が叩きつけられる。


「……人類個体、干渉不要」


「知るかよ!」


ガルムが、吠える。


「俺の獲物を、横取りするな!」


――斬撃と神性が激突。


空間が、歪んだ。


「……この二人が、正面衝突……!」


カイは、息を呑む。


だが、その直後。


胸の奥で、何かが――軋んだ。


――《権限保持者》

――《状況:複数上位干渉》

――《制限解除条件、達成》


頭の中に、**“扉”**が見えた。


重く、閉ざされていた扉。


「……これが……」


赤い瞳の監視者の声が、遠くで響く。


――《一段階目だ》


「……来たか」


カイは、目を閉じ、そして――開く。


「――《権限解放・第一段階》」


世界が、止まった。


いや――

“選択可能”になった。


――《支配権限・第一段階》

――《仲間の進化方向・能力干渉が限定的に可能》


「……なるほど」


カイは、戦場を見渡す。


仲間。

敵。

流れ。


すべてが、はっきりと“見える”。


「ルゥ――」


「ぷるっ!」


「次は、防御じゃない」


――《仲間:ルゥ》

――《進化方向指定:対神・対破壊特化》


光が、ルゥの核を包む。


――《進化中断・不完全解放》

――《称号付与:神喰いの萌芽》


「……神性、侵食……?」


使徒が、一歩退いた。


「これは……許容外」


ガルムが、舌打ちする。


「チッ……今日は、ここまでか」


大剣を肩に担ぎ、笑った。


「続きは――

 次に会った時だ、賞金首」


使徒も、翼を畳む。


「……記録完了。

 権限保持者、危険度更新」


金色の光が、収束する。


「次は――

 《完全執行》を行う」


二つの存在が、同時に戦場を離脱した。


――沈黙。


森が、元の音を取り戻す。


「……生きてる……」


グラドが、呟いた。


セラフィナが、剣を収める。


「……あなた、本当に……」


カイは、手を見つめた。


「……まだ、一段階目だ」


だが確信がある。


(この力は……

 仲間を守るためにある)


ルゥが、ぷるんと寄ってくる。


「ぷるっ……《マスター》、強くなった?」


カイは、笑った。


「ああ。

 でも――」


仲間を見渡す。


「一人じゃ、ここまで来れなかった」


遠くで――

赤い瞳が、満足そうに細められた。


「いいぞ……

 ようやく、舞台に立った」


世界は、次の段階へ進んだ。


――もはや、後戻りはできない。

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