第7話 神の使徒と、賞金稼ぎ《エース》

夜明け前。

森は、異様な静けさに包まれていた。


風が止み、虫の声も消え、

まるで世界そのものが息を潜めているようだった。


「……おかしい」


セラフィナが、剣の柄に手をかける。


「この静けさ……《結界》が張られている」


「結界?」


カイが周囲を見渡す。


木々はそこにある。

霧も流れている。

だが――確かに“外”と切り離された感覚があった。


ルゥが、震えながら告げる。


「ぷるっ……《マスター》……空、変……」


その瞬間。


――ぱきん。


空に、亀裂が走った。


「……空が、割れた?」


亀裂はゆっくりと広がり、

そこから白い光が降り注ぐ。


そして――


「――確認完了」


冷たく、感情のない声。


光の中から、人の形をした存在が降り立った。


白い法衣。

背中に、半透明の翼。

顔立ちは整っているが、どこか“人形”じみている。


そして――

瞳は、金色。


「……あれは……」


セラフィナの顔が、青ざめた。


「《神の使徒》……」


その存在が、一歩前に出る。


「個体識別。《権限保持者》――カイ・アーヴェル」


名を、正確に呼んだ。


「神域演算により、貴殿の存在は

 世界秩序に対する《逸脱》と判定された」


カイは、歯を食いしばる。


「……神の差し金か」


「否」


使徒は首を振る。


「これは、世界の修正行為である」


――《修正》。


その言葉に、背筋が凍る。


「貴殿の能力仲間召喚は、

 正式名称支配権限・原初型


カイの脳裏で、何かが“噛み合った”。


「やはり、隠されていたか」


使徒は淡々と続ける。


「権限保持者は、本来一柱のみ。

 現在、神域に登録されている権限数と、齟齬が発生している」


「……要するに」


カイは一歩前に出た。


「俺が、邪魔だってことだな」


「肯定」


使徒の翼が、微かに輝く。


「よって、最終警告を通達する」


――空気が、張り詰める。


「権限を返還せよ。

 従えば、存在の抹消は免除される」


「……仲間は?」


「不要な付随データとして、削除される」


一瞬。


森が、凍った。


「……ふざけるな」


カイの声は、低かった。


「仲間は、物じゃない」


使徒の瞳が、わずかに細まる。


「感情反応を確認。

 やはり、逸脱が進行している」


翼が、大きく広がった。


「では――」


――《執行》。


その瞬間、光の刃が空から降り注ぐ。


「ルゥ!」


「ぷるっ!!」


ルゥが即座に前に出て、完全硬化。


――がきぃぃん!!


光の刃が、装甲に食い込む。


「……ぐっ!」


ルゥの体が、軋む。


「装甲を、削っている……!?」


グラドが叫ぶ。


「《主》! あれ、人間の攻撃じゃない!」


使徒が、淡々と告げる。


「神性攻撃。

 防御不可」


「……上等だ」


カイは、拳を握った。


「防げないなら――」


その瞬間。


――《仲間:ルゥ》

――《進化条件:神性干渉を検知》

――《進化を提案》


「……来たか」


カイは、即座に頷く。


「ルゥ、耐えろ!」


――《承認》

――《対神適応・限定進化》


ルゥの核が、深い青へと変色する。


「ぷるぅぅぅっ!!」


光の刃が、弾かれた。


「……神性、拒否?」


使徒の声に、初めて“揺れ”が混じる。


「あり得ない。

 下位存在が、神性を――」


「あり得るさ」


カイは、言い切った。


「俺の仲間だからな」


使徒が、一歩後退する。


「……報告対象を更新。

 脅威度、上昇」


その時――


「――そこまでだ」


低く、乾いた声が割り込んだ。


「神だの使徒だの……

 賞金首の取り合いに、割り込まないでくれるか?」


木々の上。


一人の男が、立っていた。


長い外套。

顔に走る古傷。

背中には、大剣。


その存在感だけで、空気が変わる。


「……まさか」


セラフィナが、息を呑む。


「《賞金稼ぎエース》……

 《断罪者》ガルム・レイド」


男――ガルムが、にやりと笑う。


「正解だ、元騎士団長殿」


「……やはり、来たか」


「金貨五千枚に、神絡みの特別報酬。

 逃す理由がない」


ガルムの視線が、カイを捉える。


「お前が《カイ》だな。

 悪くない目をしてる」


使徒が、淡々と告げる。


「人類個体。

 この対象は神域管理案件――」


「うるせぇ」


ガルムは、即座に切り捨てた。


「俺の仕事は、賞金首を倒すことだ」


使徒と、賞金稼ぎ。

二つの脅威が、同時に立つ。


「……面倒なことになったな」


カイは、仲間たちを見渡した。


ルゥは、まだ前にいる。

グラドたちは、緊張で固まっている。

セラフィナは、剣を構えた。


ガルムが、剣を肩に担ぐ。


「安心しろ」


そして、楽しそうに言った。


「まずは――

 お前を試すだけだ」


大剣が、振り下ろされる。


――地面が、割れた。


「来るぞ!!」


神の使徒が、翼を広げる。


「執行を継続」


二つの“上位存在”が、同時に牙を剥いた。


カイの胸に、確信が宿る。


(……ここが、分岐点だ)


世界か。

仲間か。


答えは、もう決まっている。


「――全員、戦闘態勢!」


物語は、次の段階へ突入する。

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