第5話 騎士団の判断と、彼女の選択
王都・白銀城。
厚い石壁に囲まれた会議室に、重苦しい空気が漂っていた。
「――報告は以上です」
王国騎士団第三中隊長、セラフィナ・アルディスは静かに頭を下げた。
「森の主級、《装甲魔獣》は、確かに討伐されていました。
犯人は、追放者の少年――名をカイと名乗っています」
円卓を囲むのは、王国上層部と騎士団幹部たち。
「ふざけた話だ」
「追放者が、森の主級を?」
「しかも、ゴブリンを従えているだと?」
ざわめきが広がる。
老騎士が、低い声で言った。
「……魔物を従える者は、例外なく《災厄》となってきた」
「その通りだ」
別の男が頷く。
「記録に残る限り、魔物使いはすべて処刑対象だ」
セラフィナは、拳を握った。
「――ですが」
会議室が静まる。
「彼は、戦闘中、一度も“殺す”選択をしませんでした」
「……何?」
「我々を逃がした。
圧倒できたはずなのに、です」
「それが何だ?」
若い貴族騎士が鼻で笑う。
「今は善人面していても、力を得れば変わる。
危険は芽の内に摘むべきだ」
「同意だ」
老騎士が頷いた。
「《特級監視対象》として、次は捕縛。
抵抗した場合――討伐」
重い言葉が、決定として落ちる。
「……了解しました」
セラフィナは、表情を崩さず答えた。
だが、その胸の奥は――ざわついていた。
(本当に……彼は《災厄》なの?)
⸻
夜。
騎士団宿舎の一室。
セラフィナは一人、剣を磨いていた。
金属を撫でる音が、静かに響く。
(ゴブリンを守るように指示していた……)
(スライムに、感謝していた……)
記憶が、何度も蘇る。
「……私たちは、何を守っている?」
呟きは、誰にも届かない。
その時――
机の上の水晶が、淡く光った。
「……異常反応?」
監視用の簡易水晶だ。
森の方向から、微弱な魔力反応が観測されている。
だが――規模は小さい。
(戦闘……じゃない)
セラフィナは、剣を手に立ち上がった。
「……確認だけ」
誰にも告げず、彼女は夜の王都を抜け出した。
⸻
森の奥。
カイは、小さな焚き火の前に座っていた。
「……しばらく、ここに留まるのは危険だな」
グラドが頷く。
「騎士団、また来る」
「分かってる」
だが、今すぐ移動すれば、仲間たちが疲弊する。
その時――
「動かないで」
凛とした声。
木々の間から、銀髪の女騎士が姿を現した。
「……セラフィナ?」
カイは即座に立ち上がる。
「一人……?」
「一人だ」
彼女は剣を抜かなかった。
「今日は、捕まえに来たわけじゃない」
ルゥが警戒する。
「ぷるっ……!」
「安心しろ」
セラフィナは、ルゥを見て言った。
「君たちを害するつもりはない」
沈黙。
火の揺らめきが、二人の顔を照らす。
「……何の用だ」
「確認に来た」
セラフィナは真っ直ぐにカイを見た。
「君は、本当に……人を殺すつもりがないのか」
カイは、迷わなかった。
「ない」
即答だった。
「俺は、生きたいだけだ。
仲間も、生きてほしいだけだ」
「……魔物も、か?」
「彼らは、仲間だ」
その言葉に、セラフィナの瞳が揺れた。
「……私たちは、魔物を“脅威”としてしか見てこなかった」
「それが普通だ」
カイは静かに言った。
「俺だって、そうだった」
焚き火が、ぱち、と音を立てる。
セラフィナは、深く息を吸った。
「……騎士団は、君を《特級監視対象》に指定した」
「やっぱりな」
「次は……拘束命令が出る」
沈黙。
「……それでも、来た理由は?」
カイが尋ねる。
セラフィナは、剣の柄から手を離した。
「私は……迷っている」
そして、頭を下げた。
「お願いだ。
君のそばで、見させてほしい」
「……は?」
「君が“何者”なのか。
この力が、世界を救うのか、壊すのか」
グラドが目を見開く。
「騎士団長クラスが……裏切り?」
「裏切りではない」
セラフィナは顔を上げ、強く言った。
「これは……私自身の選択だ」
カイは、彼女をじっと見た。
(騎士団の人間……)
(だが、嘘は言っていない)
その時、カイの視界に表示が浮かぶ。
――《対象:セラフィナ・アルディス》
――《仲間登録:可能》
――《条件:相互の意志》
(……仲間登録?)
カイは、ゆっくりと口を開いた。
「……俺の仲間になるなら」
「……なる」
セラフィナは、即答した。
「剣を、君のために振るう」
カイは、頷いた。
「なら……よろしく、セラフィナ」
――《仲間登録を実行しますか?》
「……実行」
淡い光が、二人の間に走る。
――《仲間登録完了》
――《仲間:セラフィナ・アルディス》
――《種族:人間》
――《役割:騎士》
――《忠誠度:高》
――《進化可能:条件未達》
「……変な感覚だな」
セラフィナは、自分の胸に手を当てた。
「だが……不思議と、安心する」
ルゥが跳ねる。
「ぷるっ! 仲間っ!」
グラドが片膝をつく。
「《主》、人間の剣、加わった」
カイは、焚き火を見つめながら呟いた。
「……これで、人類とも完全に敵対したな」
セラフィナは、首を振った。
「まだだ」
そして、静かに微笑む。
「私は……君の“橋”になる」
人類と、魔物。
管理と、自由。
その境界線に、彼女は立った。
遠くで――
赤い瞳が、満足そうに細められた。
「……やはり、面白い」
世界は、静かに次の局面へ進み始めていた。
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