第4話 騎士団来訪――《人類の正義》
森に、異質な音が響いた。
金属が擦れる音。
規則正しい足音。
そして――人の気配。
「……人間、来る」
グラドが低く呟いた。
「数は?」
「多い。十……いや、十五以上」
カイは眉をひそめた。
「騎士団か……」
装甲魔獣を倒した影響だろう。
あれほどの魔獣が死ねば、人類側が気づかないはずがない。
「ルゥ、隠れられるか?」
「ぷるっ! できるっ!」
ルゥが体を地面に溶け込ませるように薄く広がる。
ゴブリンたちも、木陰に身を潜めた。
だが――
「無駄だ」
凛とした女の声が、森に響いた。
「すでに包囲している。姿を現せ、追放者」
カイの背筋が冷たくなる。
「……追放者、だと?」
隠れる意味はない。
カイは一歩前に出た。
木々の間から現れたのは、白銀の鎧に身を包んだ騎士たち。
胸には王国紋章。
先頭に立つのは、長い銀髪を束ねた女騎士だった。
「王国騎士団第三中隊長、セラフィナ・アルディス」
剣を抜かず、だが油断なく告げる。
「この森で《装甲魔獣》が討伐された。
その直後から、異常な魔力反応が観測されている」
鋭い視線が、カイを射抜く。
「――君だな?」
「……そうだ」
カイは否定しなかった。
「俺が倒した」
その瞬間、騎士たちがざわめく。
「嘘だろ……?」
「装甲魔獣を、一人で?」
「武器も持たずに……?」
セラフィナは、疑いを隠さない。
「虚偽申告は罪だ。
それとも……背後に《魔人》か《魔獣王》でもいるのか?」
その言葉に、グラドが歯を噛みしめた。
「《主》、俺たち、魔人扱い……?」
「……黙ってろ」
カイは一歩前へ出た。
「誤解だ。俺たちは、この森で生きてるだけだ」
「なら、説明しろ」
セラフィナの声が冷たくなる。
「なぜ追放者が、森の主級魔獣を討てた?」
「……仲間がいる」
カイが指を鳴らす。
「ルゥ」
「ぷるっ!」
地面から、装甲スライムのルゥが姿を現す。
「スライム……?」
騎士たちが一瞬、呆気に取られた。
だが次の瞬間――
「……進化体?」
セラフィナの目が、わずかに見開かれる。
「スライムが、ここまで進化するなど……」
さらに、木陰からゴブリンたちが姿を現した。
「ゴブリン!?」
「討伐対象だ、構えろ!」
一斉に剣が抜かれる。
「待て!!」
カイが叫ぶ。
「彼らは俺の仲間だ! もう人を襲わない!」
だが――
「信じろと?」
セラフィナは剣を構えた。
「ゴブリンは人類の敵だ。
それを従えている時点で、君も同類と判断される」
空気が張り詰める。
「……話し合いにならないか」
「ならない」
セラフィナは、断言した。
「王国の法は明確だ。
魔物を従える者は、《危険存在》として拘束、または討伐」
「……討伐?」
カイの胸に、怒りが灯る。
「俺たちは、何も奪っていない」
「関係ない」
セラフィナの瞳は揺れない。
「“可能性”が危険なのだ」
その瞬間――
カイの視界に、警告が浮かぶ。
――《敵対行動を感知》
――《対象:王国騎士団》
――《仲間登録:不可》
――《戦闘回避を推奨》
(……戦うな、ってか)
だが、騎士団はもう、包囲を完成させていた。
「最後に聞く」
セラフィナが言う。
「投降するか。
それとも――敵になるか」
沈黙。
ルゥが、そっとカイの足に触れた。
「ぷるっ……《マスター》」
グラドたちが、武器を握る。
カイは、深く息を吸った。
「……投降はしない」
騎士たちが、一斉に動く。
「――制圧せよ!!」
「ルゥ、防御!」
「ぷるっ!」
ルゥが前に出て、完全硬化。
騎士の剣が叩きつけられるが――
がきん!!
「なっ……!?」
刃が、弾かれた。
「スライムの装甲が、騎士剣を……!?」
混乱が走る。
その隙に、グラドが叫ぶ。
「《主》、指示を!」
カイは即座に判断した。
「殺すな! 傷つけすぎるな!
目的は――逃げる!」
「了解!」
ゴブリンたちが煙玉を投げ、視界を遮る。
「なっ、煙……!」
その中で、ルゥが粘液を撒き、騎士たちの足を絡め取る。
「動けない!?」
「くっ……!」
セラフィナだけは、冷静だった。
「……なるほど」
彼女は剣を一振りし、粘液を断ち切る。
「統率、判断、非殺傷……」
赤い瞳の監視者の言葉が、カイの脳裏をよぎる。
――《支配者》か、《救世主》か。
カイは、セラフィナと一瞬だけ視線を交わした。
「俺は……敵じゃない」
「……今は、そうかもしれない」
セラフィナは静かに言った。
「だが、君は――
“人類の管理外”だ」
煙が晴れる頃には、カイたちは森の奥へと退いていた。
騎士団は、追撃しなかった。
セラフィナは剣を収め、部下に命じる。
「撤退。
本件は――《特級監視対象》として報告する」
「隊長……追わないのですか?」
「追えば、死人が出る」
セラフィナは呟いた。
「彼は……殺す気がなかった」
森の奥。
カイは立ち止まり、息を整える。
「……人類側とも、対立か」
ルゥが跳ねる。
「ぷるっ! でも、勝ったっ!」
「……いや」
カイは首を振った。
「これは、始まりだ」
人類。
魔獣。
神。
すべてが、彼を中心に動き始めている。
その遠く――
赤い瞳が、再び闇の中で光った。
「いい選択だ、少年」
監視者は微笑む。
「だが――次は、そう簡単にはいかない」
世界は、彼を《危険》と認識した。
それでも、カイは進む。
仲間と共に。
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