第3話 「強くなりたい」

 俺は頑張れない人間だ。

 どれだけ大切なことだと理解していても身体は動かない。

 俺がファンタジー世界の主人公だったら頑張れると思っていたが、意外とそんなことはなかった。

 この世界に来て、魔術が存在することを知った時は興奮した。

 前世の世界には無いものを見てやる気が出た。

 けれど、いざ始めようとすると魔力の発現には条件がいるらしく、魔術の世界の険しさを理解していく度に気が重くなり、使える人を目の当たりにすると簡単に挫折した。


 次に、生前では頑張れなかった勉強をして学校に行って建築士にでもなろうかと考えた。

 前世全く勉強できなかった俺が2度目の挑戦だからと言って頑張れるわけもなく、1ヶ月でやめた。

 1日やらないと次の日からもっと面倒臭くなる。


 なぜ人間の心と体は矛盾するのだろうか。

 成績が良くなりたいと思っても勉強を頑張れるかどうかは別の問題である。

 ダイエットを成功させたいと思っても食事制限やトレーニングを頑張れるかは別の問題である。

 また、俺の今の立場に置き換えてみても同じことが言えるだろう。

 強くなって魔物(モンスター)を圧倒できるようになりたいと思っても、「怪我したくない」や「ダンジョンに潜るのが面倒臭い」と言った感情は目標を打ち消す。

 人と楽しくしょうもない話をしたいと思っても自分から話しかけることはない。


 俺はグロムになんて言い訳をすればいいのだろうか。

 あの優しい先輩感のあったグロムからは考えられないような圧を感じる。

 今にも押しつぶされそうだ。

 現に立ち上がることができないでいる。

 光を失った冷ややかなグロムの瞳はやや痛い。

 

 もとはと言えば俺が悪い。

 ちゃんとルークと話をしていれば止められたかもしれないものを、俺はやらなかった。


 グロムは、雰囲気を裏切る一言を放った。


「……すまん」


 俺は思わず目を丸くした。


「いや、俺がルークを止められなかっただけで……」


 俺は慌てて弁明する。


「いや、俺が判断を誤った。ハッキリ言ってどうするのがベストだったかは分からないが、」


 怒りがにじみ出ていたグロムだったがやがてこれでは駄目だと言わんばかりに首を振り、表情を切り替えた。


「ダンジョンで仲間や人が死ぬのは日常茶飯事みたいな物だ。切り替えるぞフィン」

「……はい」


 手を差しのべたグロムの手をしぶしぶ握って、あまり体重をかけないように立ち上がる。


「俺達と15階層まで来い」


 足手まといになりますよ?と出かけた言葉は喉元で息とともに飲み込んだ。

 ルークを説得する以外にもう一つこの悲惨な事故を止める方法はあった。

 俺が強ければよかったのだ。

 俺がオークを瞬殺できる程強ければ、ルークの頭が握られたあの瞬間でも助けられた。

 俺の目の前では誰も死なないくらいに強くなりたい。

 そんな俺の返答は決まっていた。


「分かりました」


 もちろん足を引っ張るつもりはない。

 下層組の真ん中、もしくは最後尾で戦闘を観察しながらモンスターとのやり取りを学んで行こう。

 それが今できることだろう。




---



 グロムに連れて行かれ、グロムのパーティメンバーと合流した。

 美女2人よりも明らかに体のデカい男の方に目が行ってしまった。

 体に見合ったどデカい盾を背中に携えていて、腰に装備している片手剣は金色のイナズマを連想させる。

 見るのは初めてじゃないが、改めて近くに立つと迫力満点の大男である。


「やっぱりバッカス目立つよな」


 名前はバッカスというらしい。


「15階層まで同行させて頂きます」


 できるだけ丁寧に挨拶を済ませておく。


「よし、進もうか」

「グロム、あんたは休憩してないみたいだけど大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、問題ない」


 グロムの言葉を聞いた仲間達は追求することなく前を向いた。

 グロムは俺を探す時に、仲間達を休憩させていたのだろう。

 申し訳ない気分になった。




---




 俺は、このダンジョン内の魔物に違和感を感じていた。

 それは、必ず道具を使って戦うということ。

 オークであれば、大剣を持っていたり、斧を持っていたりするし、ゴブリンやコボルトはツルハシや短剣などを器用に使う。

 冒険者から奪い取って使っているのだと想像は付くが、冒険者が使っているのを見て、模倣できるのにはさすがに驚いた。

 地上での森や洞窟に生息する魔物にはそういった知恵はない。

 たまに、人間と戦っているのではないかと錯覚する程だ。


「グロム、敵だ」


 全員が武器に手を伸ばし、戦闘態勢に入る。


 1〜9階層は小型中型の魔物が中心に出現し、10階層以降は大型の魔物が頻繁に出現する。

 しかし、今回はコボルトの群れである。

 10体程。

 こちらの数は俺を除いて10人。

 同数である。

 グロムパーティが5体程を受け持ち、他の6人が残りを受け持つような形となる。


 13階層にコボルト?と俺は油断と似た感情を抱いたが、グロム達は油断しない。

 短刀を持ったコボルトが素直に真正面からバッカスに斬りかかる。

 バッカスの構えていた大盾が簡単に防ぐが、二発目の素速い動きに反応が遅れる。

 短刀がバッカスの横腹に入る寸前でグロムがコボルトの首を刎ねる。


 大盾持ちは、盾を持っている側は反応が遅れるようだ。

 俺はそんなことを考えながら、壁に背中を付ける。


 それからはグロムやバッカスがコボルトを抑え込み、女の1人が巨大な炎の弾で圧倒……いや、蹂躙していた。

 他の人達も苦戦することなく、コボルトを倒す。


「なんか、バラバラだな」


 魔術師の女がふと呟いた。


「何がだ?」

「モンスターの出現階層がだよ。普通こんなところにコボルトの群れなんかいないだろ?」

「ま、まぁ……」


 あまりにも不自然な魔物の配置に全員が頭を抱えた。

 今のところ困るようなことはないのだろうが、もしもっと下層の魔物が上層に出現した場合、逃げることさえままならないかもしれない。

 それか、日々魔物が階層を移動しているのなら、町も安全とは言い難いだろう。

 もしかすると、魔物(モンスター)の湧きが少なかったのは湧き層が全体的に下がってしまったからなのではないだろうか。


「町か安全地帯に入ったらにしよう」


 一瞬考える仕草をしたグロムだったが、冷静に進む判断をする。


 魔石は回収しないのだろうか。

 当たり前だけど、ダンジョン内で魔石を換金することはできないし、魔石を加工する技術がない限り活用もできない。

 3階層まででしか狩りができない貧乏冒険者の俺にはあまりにも勿体なく感じた。

 けれど、周りに合わせて俺も無視をした。



 町エリアの手前の階層、つまり14階層にはボスがいるとのこと。

 いや、正確にはボスの次の階層に町を構築したという方が正しいのかもしれない。

 ダンジョン内に町を構築するのは納得できるが、なぜボスの後なんだろうと思う。

 これは俺の想像だが、ボスの前に町を作れば万全の状態でボスに挑めるだろうが……。

 う〜ん、逆なのか?

 ボスを突破できる程の強さのない冒険者は1〜14階層まででウロウロしとけみたいな。

 実力を持ち合わせている冒険者しか通れませんみたいな。


 下層組が進んで行く中で、人とのコミュニケーションを全く取らない俺は考察仕放題だった。

 ボスの次の階層に町がある理由。

 魔物が減少した理由。

 そして、出入り口が塞がってしまった理由。

 そのすべての考察、推理はあくまで俺の想像として留めておこうと思う。

 誰かに言って、違うと責められても困る。


「ここがカオス・オークの部屋だ」


 上層部のボス。

 オークの上位種で、攻撃のバリエーションが高いと言う。

 初心者がカオス・オークを倒せば中級者になったと言えるとのこと。

 部屋と言っても扉があるわけでもないし、ハッキリと区切られているわけでもない。

 15階層に降りるための一本道に立ち塞がっているだけ。

 カビ〇ンである。


 体長3メートル程の巨体の前に、冷静に立つ4人は俺(フィン)達には心強かった。

 大斧を肩に抱えているカオス・オーク。

 背中からは寄生されたかのような顔を持つ触手がウニョウニョしている。

 4人に続く冒険者達も俺には手が届くような存在ではなかった。




---




 グロム達はいとも簡単にカオス・オークを倒してしまった。

 バッカスがヒーリングを受けながら攻撃を受け持ち、炎の魔術で怯ませて、グロムが追撃するの繰り返し。

 1つ疑問に思ったのが、グロムの武器が炎の魔術の着弾地点から“何か”を吸い取っているかのように見えた。

 そういった特性なのだろうか……。


 まぁいいや。

 15階層に到達だ!安全だ!バンザーイ!

 とは素直に喜べなかった。

 俺はこのままでいいのだろうか。

 今までソロで上層をウロウロしていただけの俺は、想像を絶するような強者パーティの戦闘に翻弄されている。

 少なくともここにいる人は俺よりも圧倒的に強い。

 自分だけ置いていかれているような疎外感。

 頑張らないと実力の差を離されそうな焦燥感。

 誰かに守られているだけの自分がもどかしくて仕方なかった。


 町は夜の帳が下り切り、無数の光の点が映っているようだった。

 ダンジョン内では昼夜の判別はできないし、その概念もない。

 魔物の姿はその影もない。

 ここまで辿り着いた冒険者達が宴会を開いていたり、ダンジョン内という緊張感はなかった。

 当然、この場にいた冒険者はダンジョンの出入り口が塞がれたことは知り得ないのだから。


「とりあえずダンジョンの出入り口が無くなったことを伝えた方がいいな」

「でもどこに伝えるんだ?情報屋に売るのか?それとも口頭で冒険者に伝えていくのか?どうするんだ?グロム」


 グロムを急かすように魔術師の女が言う。


「落ち着こうよシエラちゃん」


 全員に伝えなければならない情報をわざわざ金にするという案は論外だが、とにかく情報を冒険者達に伝えるのには賛成だ。


「酒場に言って口頭で伝えるか」

「あり」


 口頭で伝えて信じてもらえるのか?

 今までにあったのなら理解はしてもらえるだろうけど、俺はそんな歴史知らんぞ。


「とりあえず向かうか」


 11人は歩き出す。

 簡易的に作られた冒険者の休息場。

 娯楽という娯楽は無いものの、食事や睡眠は安心して取れるような最低限のものは備えられている。

 地上で加工された魔石を用いた明かりがほんわりと足下を照らす。

 うっすらと見える揃わない足の影を追いかける。

 先頭を歩いていたグロムが足を止めて、やがて俺の隣に来た。


「なぁフィン」

「なんですか?」

「ルークのこと、どこまで聞いてる?」


 それは……どういう質問?


「ほとんど話はしてません」

「……はぁ、なんとなくそんな気はしてたよ」


 呆れた表情をしたグロム。

 自分のコミュ症をバカにされた気がして俺もため息をこぼす。


「ルークはなんであんなに焦って強くなろうとしてたと思う?」

「分かりません」


 そんなの本人にしか分からないだろ。


「たぶんアイツは家族を守れなかったからじゃないのか?」


 そんな言われても分からんて。


「……そうなんすね」

「自分と妹を庇った両親が魔物に殺されて、残った妹を守るために強くなりたいって言ってたんだ」

「……」


 なぜ俺にそんな話をするんだろう。

 人の振り見て我が振り直せってこと?

 ごめん、何が言いたいのか分からない。

 だからって何が言いたい?とは聞けない。


「アイツがダンジョンに潜るようになってゴブリンやコボルトを倒していく度に成長してんだなって見てたんだけど、死ぬ時は呆気なかったな……まぁ、死に急ぎ野郎だったからなんとなく想像できたけど」


 グロムにとってルークがどういう人物なのかいまいち掴めない。

 そしてなぜ俺に言うのかも……。


「“人を守るってやっぱ辛いことだよな”」


 ふと呟いたグロムの言葉に俺は訝しげな表情をする。

 数十秒の沈黙。

 俺はなぜグロムの言葉を突き放しているのか理解した。

 ただ日銭を稼ぐだけの俺に対して、明確な目的があるルークとの格差を、突き付けられているようでなんだか気持ち悪い。

 俺には無くて、彼にある物。

 『夢』である。

 グロムは両方の気持ちをなんとなく理解しているからこそ余計にウザい。

 何より俺は、守るべき物を自分で壊した。

 俺が目的を持って冒険者になっていたならグロムは何も言わなかったのだろうか。


「……」


 グロムに俺を強くして欲しいと頼むべきか。

 グロムなら俺の師匠に快くなってくれるだろう。

 でも迷惑じゃないか?

 俺が何か言いたげな表情をしていると、グロムが察して言った。


「お前、強くなる気はないか?」

「……なりたい」


 自信なさそうに答える俺にグロムは言った。


「本当に?」

「本当です」

「そうか、なら出入り口で待っているヤツらに食料を届けに2人で行くか」

「……ん?」

「お前の戦闘を見てやるって言ってんだ。強くなるには実戦が手っ取り早いからな」

「そうなんですかね」


 戦闘を見て、ピンチになれば手助けしてやると心強い後ろ盾を用意してくれた。

 もっとも俺はその後ろ盾に背中を預けなければ魔物と戦うことはできないだろう。


「けど、そんな安全な冒険は俺の経験に繋がるのでしょうか」

「なる!」


 グロムは素早く断言する。

 逆上がりが序盤は他人のフォローによって感覚を掴み、やがて一人で回れるようになるのと一緒なんだと……。


「よろしくお願いします」


 そんな会話をしている間に、この町で食事を取れる酒場の目の前に到着する。

 酒の匂いが充満した空間で、大半が男がどんちゃん騒ぎしていた。

 ざわつく空間を切り裂くようにグロムは声を上げた。


「悪いが、静かにしてくれ!大事な話があるんだ!」


 ざわつく酒場が段々と静かになり、ほぼ全員が怪訝そうにグロムに注目を集める。


「さっき上層から降りてきた。信じられないだろうが、ダンジョンの出入り口が塞がってしまった」


 あまりに信じ難いその言葉に酒場の冒険者は否定的な声を上げる。

 当然の反応である。


「魔法によるものか物理的なものかは分からない。だが、塞がった壁は破壊不可だった。嘘だと思うなら自分で確かめに行ってみるといい」


 グロムは凄いなぁと感心する。

 俺にはいつになってもできないこと。

 こんな大勢で態度もデカい奴ら相手に冷静に話すことができる。


 確かめに行ってみろという言葉で信憑性は格段に上がった。

 ここにいる冒険者は1階層から15階層を少なくとも往復できる中級冒険者達である。

 そんな連中にこんなタチの悪い冗談は言わないと誰もが思った。


「俺はコイツの冒険の手伝いをする」


 俺の肩にポンと手を置く。

 やめてくれ恥ずかしい。


「上で待つ奴らに食料を届けに行くついでだ。付いて来る者はいるか?」

「俺達は付いて行くぞ。パーティだしな」


 バッカス達、グロムのパーティメンバーは運命共同体だと手を挙げる。


「いや、お前らは休んでて良いんだぞ?」

「何言ってんだよ水クセェな」

「私達パーティだろ?事故がないとも限らんだろ?」

「誰も欠けないのが1番ですもんね」


 めっちゃ良いパーティだな。

 俺にもいつかできるかな……?

 できないだろうなぁこんな性格じゃ。


「じゃあ一旦飯食って出発にしよう」




---




 ダンジョン内の町でも地上の通貨『ルム』は使用可能である。

 いつも買っているサンドイッチは40ルムで、この酒場は1番安い物でも160ルム。

 やや高めである。

 味も素直に美味いとは言い難い。

 ちなみにグロムの奢りである。


 みんなが楽しく食事をしている中、グロムの奢りと聞いても俺は、1番安い物を酒場の隅で食べていた。


「酒飲みてぇ。てか、これあんま美味しくねぇな」

「いや、セロリ苦手なだけだろ大男。なんかかけたら?」

「マヨネーズあるらしいですよ?」


 え?マヨネーズあんの?


「合うのか?」


 合うだろ。

 てかなんで苦手なもの頼むんだよ。


「いや〜でももう味付けされてあるしな〜」


 確かにそれはマヨいどころだね〜。

 ごめん何でもない。


「なら我慢して食べるんだね」

「私が食べさせてあげましょうか?」

「それはいい」

「じゃあ俺が……」

「お前はもっといい!」


 楽しそうな4人が羨ましくて仕方なかった。

 会話に無理矢理ツッコミを入れに行ったら入れてもらえるだろうか。

 いや〜嫌な顔されるだろうな〜。

 大人しい性格を印象付けてしまったし、そんなヤツがいきなり会話に入ってくるようなマネをすれば変な目で見られるに違いない。

 授業中に日頃喋らないヤツが急にボケ、教室中が静まり返るのが目に見えている。


「……」


 周りの人の声が永遠と自分の耳に入る。

 誰が何を話しているかなんとなく分かった。

 これは前世の学生時代からの特技である。

 全盛期の小学生の頃にでも戻れたらな……。




---




 グロムパーティに俺を加えた5人で、行動することとなった。

 オーク相手はお前には荷が重いと言われ、小型のモンスターだけは俺が倒すことになった。

 グロムは解説しながら戦闘をしてくれるし、俺の戦闘を見て、戦闘の終わりにアドバイスをくれる。


「俺は本当に強くなれると思いますか?」


 俺はふと呟いてしまった。

 グロムは冷静に話す。


「なれるだろ。自信ないのかもしれないが、最初は誰でも初心者だ」


 さも当たり前のことを当たり前のように言う。


「俺は頑張れない人間です」


 自分を正当化するために放った保険の言葉。

 グロムはその一言に顔を少し険しくする。

 俺はつい不安をぶちまけてしまいたくて、そのまま続ける。


「俺、最初魔術師になろうとしてたんすよ。でも魔力の発現が難しくてすぐ面倒臭くなって、次に勉強して学校行こうとしたんすよ。でもそれも面倒臭くなって……俺本当に続けられるんですかね」


 それを聞いたグロムが足を止め、俺は言ってはいけないことを言ってしまったのだとすぐに理解した。


「お前は強くなりたいんじゃなかったのか?あぁ?」


 グロムは目に見えてキレていた。

 顔を赤くし、俺の胸ぐらを掴む。


「やる気ないのに強くなりたいとかほざいたのか?確かにお前にとってルークの死は軽いものかもしれない。けど言ったことには責任持てよ!」


 ルークの死が軽いとは言わない。

 けどルークは会ったばかりの他人に過ぎないのだ。

 それに俺が頑張れないと言っているのはそういう理由じゃない。


「そしてお前はなんでこれから習おうとしてるヤツの目の前でそれを言った?」


 ごもっともである。

 グロムの立場から見れば、強くなりたいけど俺は努力しないからなという他責思考を晒されたわけだ。

 キレるのも無理はない。


「……いや、強くなりたいですよ」

「それはさっき聞いた。強くなりたいけど頑張りはしないんだよな?やる気はないんだよな?」


 結果だけを求めるのが人間という生き物である。

 それは他人の成果のことでもあるし、自分自身の完成体にも言える。

 『強くなりたい』だけではただの努力放棄の妄想だ。

 挽回するためには何を言えばいい?


 グロムの額に青筋が浮かんでいる。

 言葉の圧とその姿に俺は戦慄する。

 教師に怒られている小学生のように。


「俺は……怖いんです。努力しても成功した自分の姿が見えなくて……。でもやっぱりやってみないとそれは分からなくて……難しいですよね、才能があるかどうかを先んじて見れないのだから」

「だからどうするんだ?」

「死ぬ気で付いて行くので、俺が次弱音を吐くことがあれば見捨ててください」

「分かった」


 グロムがキレるのを誰かが止めると思っていたけれど、誰も止めなかった。

 グロムが冷静に判断できるのだと信頼しているからだろうか。

 俺はそんな誠実で強い人を裏切ろうとしたのだ。

 俺の努力できないという軽口は、グロムの善意を泥塗りし、冒険者としての生存戦略とルークの死に対して冒涜を表すのだと今冷静になって理解した。

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