第4話 いざ!大阪へ④

イベント広場に戻ると、片付けを終えた大将と豪屋さんたちが待っていてくれた。

少し離れた場所では、愛島さんが女の子たちに囲まれて談笑している。

こちらに気づいた愛島さんが「やれやれ」と肩をすくめながら歩いてきた。


「姫塚に会えたか?」


「……うん。まぁ、忙しそうだったよ」


豪屋さんの問いに、私は曖昧な笑みで答える。

胸の奥に、寂しさと安堵が半々で混じって、言葉が少しだけ重たくなった。


「なんだ? 歯切れ悪ィな。眺めるだけじゃ物足りなかったってか?」

「そんなことないよ。それに――戻ったら全力で補うから大丈夫!」


努めて明るく言うと、愛島さんが「へぇ」と口角を上げて、私をじっと見た。

その視線が妙に落ち着かなくて、私は慌てて大将の方へ向き直る。


「お待たせしました」

「おう。じゃあ出発するか」


ニッカリ笑う大将に頭を下げ、一同は車へと歩き出した。


胡桃の背中を見ながら、豪屋さんが小声で羅々に問う。


「……何かあったのか?」

「何かあったわけじゃねぇけど。強いて言えば――一つ大人になったんじゃね?」

「大人?」

「あいつなりに、思うとこがあったってことだろ。……知らねぇけどな」


羅々は興味なさそうに肩をすくめる。

豪屋さんは「フム」と、考え深げに頷いていた。



大将の弟さんの家にお邪魔させてもらい、豪華な夕飯をご馳走になったうえ、部屋まで用意してもらった。

忙しいのに、見ず知らずの私たちにここまで――感謝しかない。


(明日はもっと働こう)


胸の中でそう誓ったところで、私は女性陣――と言っても実質ひとりだが――女性用の部屋を案内された。

――が、そこで一悶着が起きる。


「あー俺、胡桃と同室で寝るわ。夜中に変なことしでかしそうだし」

「は?」

愛島さんの声が一段低くなる。

豪屋さんも呆れた目で羅々を見た。


「お前、幼馴染でもそれはマズイだろ」

「別に。コイツとは家族みたいなもんだしな。」


「確かに。今更?」


私が素直に頷くと、愛島さんと豪屋さんが同時に黙り込んだ。

二人とも妙に神妙な顔をしている。


羅々が面倒くさそうに言った。


「あー分かった。“別々”で寝る。話は終わり」

「最初からそう言え」

豪屋さんが短く言って、場が一段落した。



布団と親睦を深めたい欲が限界に達した、その時。

携帯が震えた。


「あ、樹々兄からだ」


その一言で、部屋の空気が一気に張り詰める。

羅々が瞬時に携帯へ手を伸ばし、愛島さんが反射で私の口を塞いだ。


(ちょ、扱いが犬のそれ!)


「おう、お疲れさん。どうよ大阪?」


電話に出た羅々の声は、さも当然のように落ち着いている。


『あら、胡桃の携帯にあなたが出るなんて珍しいわね? 胡桃はどうしたの?』

「あー、目の前で寝落ちしてる。昨日から騒ぎすぎたんだろ」

『そう……じゃあ可哀想だから、そのまま寝かせてあげなさい』


「分かった。明日起きたら伝えとくわ」

『……そうね。明後日の午前中に帰宅するから、“お利口にしてるのよ”って伝えておいてね』

「へいへい、了解」


短いやり取りの後、通話は切れた。


私は、樹々兄の声を“少しだけ”聞けた嬉しさと、直接話せなかった寂しさで、布団にダイブした。

棒ネコみたいに、うつ伏せのまま動かない。


「ふて寝すんな。お前が出れば、どうせボロ出すだろ」

「そうかもしれないけどさぁ……」


私は布団に不満を押しつけるように、ごろごろ転がった。


――その時。

また着信音が鳴り響いた。


今度は豪屋さんの携帯だ。

彼は画面を見て、少し困ったような顔で呟く。


「……姫塚からだ」


私と豪屋さんの視線がぶつかって、空気が固まる。

言葉にできない気まずさだけが、この部屋に重たく広がっていった。

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