第4話 いざ!大阪へ④
イベント広場に戻ると、片付けを終えた大将と豪屋さんたちが待っていてくれた。
少し離れた場所では、愛島さんが女の子たちに囲まれて談笑している。
こちらに気づいた愛島さんが「やれやれ」と肩をすくめながら歩いてきた。
「姫塚に会えたか?」
「……うん。まぁ、忙しそうだったよ」
豪屋さんの問いに、私は曖昧な笑みで答える。
胸の奥に、寂しさと安堵が半々で混じって、言葉が少しだけ重たくなった。
「なんだ? 歯切れ悪ィな。眺めるだけじゃ物足りなかったってか?」
「そんなことないよ。それに――戻ったら全力で補うから大丈夫!」
努めて明るく言うと、愛島さんが「へぇ」と口角を上げて、私をじっと見た。
その視線が妙に落ち着かなくて、私は慌てて大将の方へ向き直る。
「お待たせしました」
「おう。じゃあ出発するか」
ニッカリ笑う大将に頭を下げ、一同は車へと歩き出した。
胡桃の背中を見ながら、豪屋さんが小声で羅々に問う。
「……何かあったのか?」
「何かあったわけじゃねぇけど。強いて言えば――一つ大人になったんじゃね?」
「大人?」
「あいつなりに、思うとこがあったってことだろ。……知らねぇけどな」
羅々は興味なさそうに肩をすくめる。
豪屋さんは「フム」と、考え深げに頷いていた。
◆
大将の弟さんの家にお邪魔させてもらい、豪華な夕飯をご馳走になったうえ、部屋まで用意してもらった。
忙しいのに、見ず知らずの私たちにここまで――感謝しかない。
(明日はもっと働こう)
胸の中でそう誓ったところで、私は女性陣――と言っても実質ひとりだが――女性用の部屋を案内された。
――が、そこで一悶着が起きる。
「あー俺、胡桃と同室で寝るわ。夜中に変なことしでかしそうだし」
「は?」
愛島さんの声が一段低くなる。
豪屋さんも呆れた目で羅々を見た。
「お前、幼馴染でもそれはマズイだろ」
「別に。コイツとは家族みたいなもんだしな。」
「確かに。今更?」
私が素直に頷くと、愛島さんと豪屋さんが同時に黙り込んだ。
二人とも妙に神妙な顔をしている。
羅々が面倒くさそうに言った。
「あー分かった。“別々”で寝る。話は終わり」
「最初からそう言え」
豪屋さんが短く言って、場が一段落した。
◆
布団と親睦を深めたい欲が限界に達した、その時。
携帯が震えた。
「あ、樹々兄からだ」
その一言で、部屋の空気が一気に張り詰める。
羅々が瞬時に携帯へ手を伸ばし、愛島さんが反射で私の口を塞いだ。
(ちょ、扱いが犬のそれ!)
「おう、お疲れさん。どうよ大阪?」
電話に出た羅々の声は、さも当然のように落ち着いている。
『あら、胡桃の携帯にあなたが出るなんて珍しいわね? 胡桃はどうしたの?』
「あー、目の前で寝落ちしてる。昨日から騒ぎすぎたんだろ」
『そう……じゃあ可哀想だから、そのまま寝かせてあげなさい』
「分かった。明日起きたら伝えとくわ」
『……そうね。明後日の午前中に帰宅するから、“お利口にしてるのよ”って伝えておいてね』
「へいへい、了解」
短いやり取りの後、通話は切れた。
私は、樹々兄の声を“少しだけ”聞けた嬉しさと、直接話せなかった寂しさで、布団にダイブした。
棒ネコみたいに、うつ伏せのまま動かない。
「ふて寝すんな。お前が出れば、どうせボロ出すだろ」
「そうかもしれないけどさぁ……」
私は布団に不満を押しつけるように、ごろごろ転がった。
――その時。
また着信音が鳴り響いた。
今度は豪屋さんの携帯だ。
彼は画面を見て、少し困ったような顔で呟く。
「……姫塚からだ」
私と豪屋さんの視線がぶつかって、空気が固まる。
言葉にできない気まずさだけが、この部屋に重たく広がっていった。
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