第4話 いざ!大阪へ②
順調に大阪へ向かっていた、その時。
ポケットの中で携帯が震えた。
――このバイブ音は……!
樹々兄からのモーニングコールだ。
反射的に画面へ手を伸ばす。
指先が通話ボタンに触れかけた瞬間――後部座席から低く鋭い声が飛んだ。
「お前は今、家で惰眠を貪っている。だからまだ夢の中だ。いいな?」
羅々のドス声に背筋が凍りつく。
「う……うす……」
電話に出たら、興奮でボロを出すに決まっている。
――羅々の先手必勝策だ。
くそっ……! せっかくの樹々兄からの電話なのに!
握りしめた携帯は、無情にも着信を途切れさせた。
胸に残るのは、置いていかれたような寂しさと、どうしようもない切なさ。
ため息を噛み殺した時、運転席から穏やかな声がかけられた。
「そう落ち込むなって。もうすぐ樹々に会えるんだろ?」
「……そうっすよね」
愛島さんの一言が、沈んでいた心を少しだけ浮かせてくれる。
そうだ。もうすぐ、あの美しいご尊顔を拝めるのだ。そう思えば耐えられる。
「まあ、とはいっても……ラーメンイベントの手伝いが終わった後に、こっそり覗くだけだがな」
「お触り出来ない悲しみィー!」
思わず両手で顔を覆い、嘆きの叫びを上げる。
途端にハンドルを握る愛島さんが眉をひそめた。
「胡桃、事故る。奇声上げんな」
「……はい」
今度は誰もフォローしてくれない。
急募、優しさ! 心の中で泣きながら、窓の外へ視線を投げた。
◆
大阪に着いた私たちは、そのまま会場へ直行し、荷物を下ろした。
設営は大将の弟さんが前日から準備してくれていたらしく、ほとんど整っている。
「遠路はるばる、すまねーな。よろしくな!」
大将によく似た弟さんが快活に笑う。
なんだこの兄弟、揃って太陽みたいだ。まぶしい。
会場は芝生の広場で、真ん中には巨大なオブジェが聳えていた。
博覧会の記念らしいが、正直“ラスボス”の貫禄しかない。
そして視界に広がる、屋台、屋台、屋台。
……ここ、ラーメン天国だ。誰もが知る名店が軒を連ねている。
その一角が大将の店。
有名店の店主たちが次々と挨拶に来る姿を見て、改めて大将の格を思い知った。
「ホラよ」
差し出された缶コーヒー。振り向けば羅々だ。
弟さんからの差し入れらしい。受け取って一口。……ほっとする。
「樹々は向こうのショッピングモールでイベントしてるみたいだな。
さっきポスターに載ってた」
「なんと! 近いようで遠い! じれったい距離!」
「近すぎるとバレる。今くらいが丁度いいんだよ」
軽く小突かれ、私は唇を尖らせた。
「……無理言ってここまで連れて来てもらってるんだし、
これ以上ワガママは言わないよ」
残りの缶コーヒーを飲み干し、屋台へ戻る――が。
開店前から、すでに長蛇の列ができていた。
その光景に、私は思わず目を瞬かせる。
「……客層、女子高生ばっかなんですが?」
「女子高生の間にラーメンブームでも来たのか?」
半信半疑で呟くと、いつの間にか横にいた豪屋さんが、ぼそり。
「あれは愛島の客引きの賜物だな」
「だよね! 絶対そうだと思った! シャンパンタワーならぬラーメンタワーおっ立てそうで怖い!」
「……コールは任せた」
間髪入れず、背後から本人の声が落ちてきた。
豪屋さんが頭を抱える。うん、やっぱり苦労人ポジションだ、この人。
イベントが始まると、女子高生軍団と“ラーメン命”軍団の壮絶な戦いが幕を開けた。
地獄絵図とはこのこと。
私は黙々とネギとチャーシューをさばき続け、心が無になる境地に到達しかけていた。
「スープ切れだ! 今日の営業は終わり! お疲れさん!」
大将の声に、はっと我に返る。
気づけば辺りは夕闇。時間の感覚が飛んでいた。
「お疲れさん。よく頑張ってくれたな。助かったぜ」
大将は私の肩を軽く叩き、ニッと笑う。
「片付けはこっちでやっとく。今のうちに覗いてきたらどうだ? 本来の目的でもあるんだろ?」
親指を立てる大将。
その笑顔に胸を打たれ、私は感情のまま叫んだ。
「大将大好きー!」
握りしめた親指に、自分の熱も込めて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます