第4話 いざ!大阪へ①
気になることは山ほどある。
だがまずは、主催者への挨拶が筋だ。
私は羅々の袖を引っ張り、せっせと車へ荷物を積み込んでいる大将のもとへ小走りで向かった。
「おはようございます! 本日お世話になります!」
「おう、おはようさん! よろしく頼むな!」
早朝だというのに、大将の笑顔は夏の太陽みたいに豪快で、眩しいほどだった。
――この人の店、絶対通う。常連になってメニュー制覇してやる。
胸の奥で固く誓った、その瞬間。
ぽすん、と頭に手が置かれる。
「初めまして。豪屋君の友人の姫塚です。……この馬鹿が色々ご迷惑をお掛けしました。本日はよろしくお願いします」
羅々が、にこやかに一礼した。
久々に聞いたよ、その“余所行き”の声。
……自然すぎて逆に怖い。背筋がぞわっとした。
「礼儀正しいイケメンだなぁ。こちらこそヨロシクな!」
大将が感心したように笑う。
私が羅々をじとっと見上げた瞬間、頭の上の手に無言の圧がかかった。
だから! イタイって!
「大将、荷物はこれで全部か?」
「おお、それで全部だ。助かった、譲」
豪屋さんが荷物を軽々と運んでいる。流石、筋肉担当。
力仕事は任せれば間違いない。
その背後から、ひょこっと愛島さんが顔を出した。
「……で? YOUは何しにここへ?」
「某テレビ番組みたいな煽り方するなよ、胡桃」
けげんな顔の私に、豪屋さんが淡々と補足する。
「愛島にはドライバーを頼んだ」
「え、車の?」
思わず声が裏返った。
「愛島は免許を持ってるし運転も慣れてる。イベント二日目は午前で切り上げて戻らないと翌日に響く。……それに」
豪屋さんが、ちらりと私を見る。
「姫塚より先に帰らねーと、お前が困るだろ?」
なるほど……そういうことか。
これが羅々の言っていた“根回し”ね。正直そこまで考えてなかった。助かる!
「よろしくお願いします、パイセン!」
私は深々と頭を下げた。
大将が頼もしげに笑う。
「帰りは送ってやれなくてすまねぇ。その代わり宿泊先は弟んとこ頼んである。
飯と寝床は保証する」
「神……」
「神じゃねぇ、ラーメン屋だ」
即ツッコミが飛ぶ。
でも私の中では、もう生き仏認定が揺るがない。
こうして私たちは二台に分かれ、大阪へと出発した。
◆
高速道路に入った瞬間、日常が後方へ流れていくような感覚がした。
見慣れた景色が小さく遠ざかり、窓の外には青空と、どこまでも続く道。
愛島さんの車の助手席で、私はちらりと横顔を盗み見る。
リラックスした表情でハンドルを握る姿は、思いのほか様になっていた。
「免許持ってたんですね。……この車も愛島さんの?」
「いや、車は親父の。ただ運転は好きだ。慣れてる」
へぇ……。
運転席に収まる姿が板についていて、妙に格好いい。
――胸がちくりとしたのは気のせいだ。うん、気のせい。
……まあ、それはどうでもいいんだが。これは使える。
次回、樹々兄の追っかけをするときは愛島さんを召喚しよう。そうしよう。
「お前今……俺を“足”認定しただろ?」
「え。ナンノハナシデスカ?」
心の声が漏れていたらしい。
「却下だからな」
低い声で釘を刺され、私は大人しく前を向いた。
――大阪まで、あと少し。
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