第2話 ホストとケーキ④
ホテルの裏手
――路地裏に連れて来られた私は、数人の女の子たちと向かい合っていた。 背後は行き止まりの壁。
……あ、詰んだわ。 逃げ道がないなら、仕方ない。
私は腕をさすりながら、相手の出方を黙って待つ。
「ねぇ。あんた、愛島君とどういう関係?」
「何であんたみたいなのが、愛島さんとデートしてんのよ!」
……おっと。テンプレ台詞、いただきました。
なるほど、この子たちは愛島さん狙い。
私が一緒にいたのが気に食わなくて、「焼き入れてやっぞ」案件ってわけね。
迷惑すぎる。
「ちょっと、黙ってないで何とか言いなさいよ!」
「えー。ヤダ。めんどくさ……」
つい本音が漏れた。
だって、この先の展開が手に取るように見えるんだもん。
私はため息をひとつ吐いて、淡々と返す。
「そもそも、私が愛島さんとどんな関係だろうと、あなたたちには関係ないじゃないですか。 逆に聞きますけど、あなたたちは愛島さんの何なんです?
友達とか彼女なら、こんなことしませんよね?
愛島さんが仲良くする女の子を片っ端から排除するつもり?
――それ、愛島さんに嫌われたいんですか?」
正論を置いた瞬間、目の前の子の顔が真っ赤になった。 図星だな。
「――っ!調子に乗らないでよ!」
「愛島君は、みんなのアイドルなのっ!」
パシン――! 乾いた音がして、頬が熱を持った。
私は頬を押さえ、ゆっくり息を吐く。
「……痛いなぁ。叩かれる筋合い、ないんですけど?」
「フン!あんたが生意気だからよ」
「へぇ……生意気だったら、叩いていいんだ?」
口角が、勝手に上がる。 “スイッチ”が入る感覚がした。
その空気を察したのか、女の子たちが一歩、引いた。
「そ……そうよ!これに懲りたら愛島君に近づかないことね!」
「そ、そう!今日はこれくらいにしといてあげる!」
「……あら、それはありがとう」
私はにっこり笑う。
次の瞬間、声のトーンだけを落とした。
「――って、言うと思った?」
「え?」
「今度は、私のターン」
逃げようとした子たちの足を払いあげ倒していく
冷めた目で私を叩いた女を冷めた目で見降ろした
「ひ……ごめ……っ」
「あんたの理論だと ――生意気だったら叩いていいんだよね?」
弱い。無様。 勝てない喧嘩を売るから、こうなる。
私は腕を振り上げる。
(十倍返し――)
振り下ろす、その直前。 パシリ。 手首を掴まれた。
「……チッ。邪魔すんな!」
振り向くと、そこにいたのは愛島さんだった。
「愛島さん!」
「ダメだ」
短い一言。だけど、有無を言わせない声。
私は舌打ちしながら力を抜く。
その隙に、女の子は私の手からするりと逃げ――愛島さんの胸に縋りついた。
「おっと……」
女の勢いに、愛島さんの体が少し揺れる。
倒れていた子たちまで、わらわらと寄ってきて口々に叫び始めた。
「あ……愛島くん!あの女が私たちを!」
「その女、酷いの!何もしてないのに勝手に暴力ふるって!」
……はいはい。
何もしてないなら、私がここにいる理由がないし、頬も腫れてないんだが?
頭に上った血が、すうっと引く。 なんかもう、どうでもよくなってくる。
愛島さんは、心配そうな顔を作って女の子たちを見下ろした。
「それは大変だったね。大丈夫?」
一瞬、女の子たちの顔がぱっと明るくなる。
その瞬間――愛島さんは、にこやかなまま、続けた。
「……って、言うと思った?」
「え?」
空気が凍った。 “営業スマイル”が、完全に別物に変わる。
「あのさ。お前ら――それくらいで済んで良かったな」
「な……何が……?」
「俺が止めなかったら、全員半殺しだったぞ」
女の子が怯えて声を震わせる。
「だ……誰に……?」
愛島さんは視線を落とし、私の肩にぽすんと手を置いたまま言う。
「誰にって――この女だよ。
知らねーの? お前らが喧嘩売ったの、東高の水田胡桃。
“胡桃は小粒でピリリと辛い”って有名だろ」
「……胡桃……東高の、水田胡桃!?」
その瞬間、女の子たちの顔色が真っ青になる。
「ごめんなさい!」 「もうしませんっ!」
バタバタと逃げていく背中を見送りながら、私は不満を漏らした。
「……十倍返し、しそこねた……」
「拗ねるな」
愛島さんが小さくため息をついて、私の頭に手を置く。
「気持ちは分かるけどな。停学になったら、姫塚が心配するだろ」
「……そうだね。樹々兄を心配させたくない」
私がそう言うと、愛島さんは少しだけ真面目な目になった。
「だろ? それに、俺も姫塚も知ってる。胡桃が強いこと。認めてる」
「……うん」
「だから、くだらねーことでその強さを安売りすんな。
使うなら――姫塚のために使え。 お前は“王子を守る姫”なんだろ?」
胸の奥が、すとんと落ち着いた。
私はただ守られるだけの姫が嫌で、頑張って、頑張って――強くなった。
この力は、樹々兄を守るためにある。
「……ごめん。もう大丈夫」
「そうか。――それより、頬」
愛島さんの指が、叩かれた頬にそっと触れる。
じん、と痛みが走った。腫れてきてる。最悪。
「……カッコいい姫には、ご褒美がいるよな」
そう呟いた次の瞬間――頬に、軽いキス。
「ぎゃーーーー!ご褒美になってない、なってない!」
「はは。帰るか」
私は頬を押さえたまま、愛島さんから距離を取る。
愛島さんは何事もなかったみたいに手を差し出し、私の手を握った。
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