第2話 ホストとケーキ③
愛島さんとケーキ無双していたら、気づけば結構いい時間が経っていた。
そして――うっかり、完全にうっかり。
樹々兄たちが、店を出たことにまったく気づいていなかった。
不覚!
ケーキに夢中になっていた自分を呪いたい。
だが、ケーキには罪がない。大変おいしゅうございました……。
空になった皿に手を合わせ、「ごちそうさまでした」と小さく呟くと、
愛島さんが伝票をひょいと持ち上げた。
「――さて。豪屋たちも先に出たし、俺らもそろそろ行くか?」
「うん。お会計……」
「先に会計しとく。お前はトイレでも行って来い。出口で待ってる」
「え? 後でちゃんと請求してくださいよ?」
「ああ。じゃ、入口でな」
……こういうところは、やたらスマートなんだよな、この人。
私は化粧室へ向かい、手を洗って鏡を確認する。
ケーキで満ちた幸福顔が映った。
――うん、油断の顔。
軽く髪を直して外へ出た、その瞬間。
「ちょっと、あなた」
背後から声をかけられた。
振り向くと、見知らぬ女の子が数人。目が、妙にギラついている。
「はい? 何か御用ですか?」
小首を傾げた次の瞬間、腕をがしりと掴まれた。
「うわっ」
「こっち来て」
抵抗する暇もなく、私はずるずると引っ張られ、建物の裏へ連れて行かれる。
ホテルの壁沿い、人気のない方へ。
――嫌な予感が、全力疾走で追いかけてくる。
(え。もしかして私……ピーーーンチ?)
◆sideー愛島
会計を済ませ、愛島は入口付近で胡桃を待っていた。
……が。
待てど暮らせど、あの小動物は出てこない。
「食いすぎて腹でも壊したか?」
そんなことを漏らしたところで、背後から控えめに声をかけられる。
「あの……愛島さん、ですよね?」
「はい。そうだけど?」
反射で振り向くと、数人の女の子たちが頬を赤らめて固まっていた。
――その瞬間、愛島の心の中で盛大に舌打ちが鳴る。
(……メンドクセェ)
だが表情は、営業スマイルの完成形。
「へぇ、僕のこと知ってくれてるの? 嬉しいね」
キャーッ、と黄色い声。
愛島は内心ため息をつきつつ、笑顔を崩さずに本題へ切り込む。
「ところでさ。高校生の女の子、トイレ付近で見なかった?
食べ過ぎてお腹壊してるかもで、心配でさ」
「あ……愛島さんと一緒にいた子ですよね……」
言った女の子が、明らかに不機嫌な顔をする。――嫉妬、という名の地雷。
「……彼女なんですか?」
(知らねー奴に嫉妬される筋合い、ねーんだけど)
愛島は心の中で毒を吐き、口元の笑みだけ丁寧に整えた。
「違うよ。妹みたいな子なんだ」
その言葉で、女の子たちの空気がふっと緩む。
そして、その中の一人が「あ!」と声を上げた。
「私、見た! さっきトイレで……何人かの女の人に連れて行かれるの!」
「……は?」
営業スマイルが一瞬、剥がれかける。
「どっちに?」
「えっと……建物の裏のほう……」
(連れて行かれた? 誰にだ……?)
愛島は笑顔のまま、声だけ低くした。
「ありがとう。心配だから探してみる」
そう言って軽く手を振り、すぐに建物の裏へ回り込む。
足取りは早い。目だけが冷えていく。
(チッ……面倒なことになってなきゃいいが)
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