第2話 おっさんA、猫耳少女と出会う02

やがて肉が焼き上がり、硬いバンを出して食事になる。

焼き上がった肉を思いきり頬張ったサーニャが、

「うっまーいっ!」

と大袈裟な叫び声を上げた。

「ははは。一番いい部位を焼いたからな。本当はちょっと熟成させた方が美味しいらしいが、そこは勘弁してくれ」

「いやいや。十分だよ。アタシじゃこうはできないしね」

「料理はまったくやらんのか?」

「うん。何度か挑戦したけど、まったくダメだったよ……」

「そうか。まぁ、人間得手不得手というのがあるものだ。そう落ち込む必要はないさ」

「あはは……。ありがとね」

と会話しつつ、私も肉を頬張る。

ミノタウロスの肉は新鮮なだけあって、ほんの少し硬い感触もあったが、それはそれでいかにも肉を食っているという充実感を私に与えてくれた。

「お代わり!」

というサーニャの要求に笑顔で応える。

そして、私はまた肉を焼き、心ゆくまで高級なミノタウロスの肉を味わった。


「さて。せっかくのミノタウロスだが、全部は持ち帰れないから魔石と角だけ剥ぎ取ろう」

と言う私にサーニャが、

「アタシ魔法鞄持ってるよ」

と何気なく言ってくる。

「なにっ!? え? 魔法鞄って言ったか? おいおい冗談だろ……。ん? ってことは、その中に食料が入ってるんじゃないか?」

と聞くとサーニャは「あはは……」というような少し引きつったような笑顔で、

「それがうっかりしててさぁ。補充してなかったんだよね」

と悪びれない様子でそう言ってきた。

「あのなぁ。そういうのは冒険者の基本だろ?」

と呆れた感じで言う私に、サーニャは、

「そうだよね。いやぁ、酒はたんまり入っているんだけど、そっちはついつい忘れちゃってて……」

となんとも豪快な言い訳をしてくる。

私はそんなサーニャを(なんとも憎めないやつだ)と意外にも好意的にとらえながら、

「じゃあ、町まで一緒に帰るか?」

と、わざとらしく軽いため息をつき、気がつけばそう提案していた。


「いいの?」

「ああ。これも何かの縁だ」

「やった! これでしばらくはお肉食べ放題だね」

「ははは。冒険中なんだ。腹八分目にしとけよ」

「ははは! 了解!」

そんなこんなでサーニャと一緒に帰路に就くことになる。

その日は順調に進み、夜は私特製のタレを使った焼肉丼を振る舞うことになった。

「野営飯の範疇を越えてるよ! これ、お店出せるんじゃない?」

「ははは。ありがとう。引退したら考えてみるよ」

「うん。っていうか、アレンっていくつなの?」

「もう三十だな。サーニャは……、あ、いやすまん。女性に歳を聞くべきではなかったな」

「あはは。別にいいよ。私はちょうど二十歳。最近なったばっかりだね」

「へぇ。その若さであの実力なのか……。それはすごいな」

「まぁね。小さい頃から鍛えられたから……」

「そっか。けっこう苦労してきたんだな」

「あはは。まぁね」

と当たり障りのない範囲でお互いのことを聞き、無事食事を終える。

二人ともソロで活動しているだけあって、夜の休憩はお手の物だった。

眠っているようで眠っていないという冒険者ならではの体の休め方でしばし休息をとる。

そして、朝日が差し込んできた頃を見計らって私たちはまた元気に行動を開始した。

順調に進み、その日もやがて夕方になろうかというころ。

妙な気配に囲まれていることに気付く。

そっとサーニャに視線を送ると、

「ゴブリンかな?」

と何気ない感じでそう言われた。

「ああ。十中八九そうだろう。どのくらいの数がいるかわからんが、とりあえず任せてくれ。一応戦えるってところを見せておきたいからな」

「あはは。了解。討ち漏らしは適当に相手しとくから、頑張ってね」

「おう」

と気楽に話してその場に荷物を置く。

森の中で少し開けたその場所はゴブリンを迎え撃つには格好の場所だと判断した。

ゆっくりと剣を抜き軽く集中する。

すると、藪の中からゴブリンの集団がゆっくりと姿を現した。

(二十くらいか……。ギリギリいけるな)

と思いつつ、一気に駆け出す。

そしていつも通り落ち着いて剣を振るった。

右薙ぎに一閃してから、一歩踏み込んで逆袈裟。

少し左を向いて袈裟懸けに一閃を落とすと、そこで三匹のゴブリンが沈黙した。

その調子で駆け抜け、ものの十分で勝負が決まる。

どうやらサーニャも一匹か二匹斬ってくれたようだ。

そんなサーニャのもとに行き、

「すまん。討ち漏らした」

と謝るが、

「いやいや。アレンってけっこう使えるんだね」

と逆に褒められてしまった。

「いや。そんなことないさ。実力的にはB級がいいとこだろうからな」

「そう? けっこういい線いってたと思うけど?」

「それはないだろう。一応A級ではあるが、それも薬草採取の実績を評価されただけの話だからな」

「そっか。そういうものなんだね」

「そういうサーニャはもしかしてA級なのか?」

「ううん。S級」

「そりゃ。すごいな。さぞ名のあるパーティーで活躍してたんだろうな」

と言ったところでほんの僅かではあるが、サーニャの表情が曇る。

そして、私は、

「あはは。そんな昔のこと、もう忘れたよ」

と言うサーニャのなんとも言えない言い訳を聞き、

(ああ。これは聞かない方がいいやつだな……)

と直感すると、

「ははは。それはいかにも刹那を生きる冒険者らしい考え方だな」

と言って適当に笑ってそれ以上突っ込むのを止めた。

その後も順調に進み、町に到着する。

私たちはギルドに行くと、それぞれに納品を済ませ、無事、依頼を達成した。

「ところでサーニャは何の依頼を受けてたんだ?」

「ん? 別に何も。適当に歩いて魔獣がいたら狩ってこようって感じだったから特に見てないかな?」

「ははは。さすがだな」

「そう? そんなことより今日は飲まない? ミノタウロスの角が結構な値段で売れたんだ」

「いいな。私も薬師ギルドから特別報酬がほんの少しもらえたんだ。今日はパッとやろう」

「お。いいね!」

と話してさっそくギルドの酒場に場所を移す。

そして、ビールを頼むと、

「「乾杯!」」

と声を合わせてゴクゴクとビールを飲み干した。

「ぷっはぁ! この一杯のために生きてるって感じだよ!」

「ははは。私はそこまで酒は強くないが、けっこう同感だな」

「でしょ? やっぱ冒険の後は酒だよね!」

「おいおい。若い女子が言うセリフじゃないぞ、それ?」

「えー、なにそれ。偏見じゃん」

「ははは。そうかもしれんな」

と楽しく話しながら酒と肴をじゃんじゃん頼む。

途中、サーニャの飲みっぷりが異常だということに気が付いたが時すでに遅かった。

「よっしゃ! 瓶ごと持ってきてよ! ていうか、一番強い酒がいいんだけど!」

と言ってサーニャは遠慮会釈なしに飲み始める。

私はどうすることも出来ず、ただ、焼酎の水割りを飲みながら、それを苦笑いで見つめることしかできなかった。

やがて、アホみたいな量を飲んだサーニャがご機嫌でまるで軽業師のような踊りを披露し始め、その場が大宴会になる。

調子に乗ったサーニャは、懐から金貨を五枚も出し、

「これで飲めるだけ出して! あ、みんなにもじゃんじゃん配っていいからね!」

と言い、その場を大興奮させてしまった。

明け方、ヘロヘロになったサーニャをなんとか宿に連れて行き、適当な部屋に突っ込む。

私も隣の部屋に入り、すでに痛み始めた頭をさすりながら、二日酔い防止の薬を飲んでさっさと床に就いた。

昼頃、なんとか起き上がって、サーニャの様子を見にいく。

軽く扉を叩くと、そこにはすっかり元気になってケロッとしているサーニャの姿があった。

「いやぁ、久しぶりに飲んだからちょっと酔っちゃったよ。迷惑かけてごめんね」

と軽く謝ってくるサーニャに苦笑いで応える。

するとサーニャが、

「ていうかさ、昨日稼いだお金全部使っちゃったみたいなんだよね。良かったら宿代貸してくれないかな? あ、すぐに依頼を受けてさっさと返すからさ!」

と言い、いかにも「ごめん」という様子で頭を下げてきた。

そんなサーニャに、

「おいおい……」

と言いつつも、

「どうせなら一緒に行くか? 依頼。薬草採取の依頼ならたくさんあるだろうから、適当に受けつつ魔獣を探そう。その方が効率的だろ?」

と提案してみる。

するとサーニャは意外そうな、しかし、どこか嬉しそうな顔で、

「うん!」

と子供っぽい返事をしてきた。

「よし。そうと決まればさっさと行くか」

「うん!」

と話して宿を出る。

すっかり、日が高くなった町の雑踏を行き、ギルドに着くと私たちはそこで適当な依頼がないか、掲示板を見始めた。

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2026年1月17日 07:00
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おっさんAは転生してもやっぱりおっさんAだった ~最前線に立たない冒険者の異世界冒険譚~ タツダノキイチ @tatsudano-kiichi

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