おっさんAは転生してもやっぱりおっさんAだった ~最前線に立たない冒険者の異世界冒険譚~
タツダノキイチ
第一部
第1話 おっさんA、猫耳少女と出会う01
派手な武勇伝を持つわけでもない。
魔獣討伐の最前線にも立たない。
武器より薬草採取の道具の方を多くぶら下げている、地味な冒険者のアレン。
それが今の私だ。
思えば前世でも私はおっさんAだった。
社畜A。
隣人A。
通行人A。
そんな人生を送ってきたように思う。
(前世はつまらない人生だったよな……。まぁ、今も「草取り名人」だから似たようなもんか)
そんな風に思って、今まで何度ため息をついたことか。
私が前世の記憶を取り戻したのは五歳のころ。
教会で形ばかりの洗礼を受けさせられたのがきっかけだった。
突然熱を出し倒れた私を見て、両親はかなり驚いたようだが、私が回復し、しばらく経つとまた普通の生活に戻った。
そんな私が前線に立たないしみったれた冒険者として、今回受けた依頼は熱さましに使うリリック草の採取。
最近、小さい子の間で風邪が流行っているらしい。
それで薬師ギルドが依頼を出していたらしいのだ。
しかし、リリック草の採取はいわゆるハズレの依頼で、面倒な依頼に類する。
森の奥に行かなければ採れないのに、量は少量でいいから報酬はそれほど多くない。
あまりにも人気が無いので、何日も放置されていた。
それをたまたま他の薬草採取から帰ってきたばかりの私が見つけ、即座に受けたというのが今につながっている。
そんな昔のことを思い出しつつ、森を進み、たまたま見つけた小さな泉のそばで小休止を取ることにした。
(思えば冒険者になって十五年。もう三十歳だ。せっかく異世界転生したんだから、冒険者になってこの世界を自由に堪能してやるんだ! って張り切ってたけど、結局、私は地味なおっさんAにしかなれなかったな。……ふっ。地味な薬草採取ばっかりしてるせいで「草取り名人」なんてあだ名もつけられちまったし、長年の活動の成果で一応Aランクにはしてもらったが、魔獣討伐の実績はせいぜいBランク程度。うだつが上がらないったら、ありゃしない)
と自嘲気味に笑ってそんなことを思いながら水筒の水をひと口飲む。
(この水筒も思えば年季が入ってきたな。最近の水筒は魔法鞄の要領で水がたっぷり入るらしいし、少し高いが次の町に行ったら魔道具屋を覗いてみよう。魔力量にだけは自信があるから、けっこうな量の水が持ち運べるようになるはずだ。まぁ、本当なら魔力量次第でなんでも入る魔法鞄を買いたいところだが、あんな高級品はとても買えねぇしなぁ……)
と思い軽くため息をつくと、私は水筒に泉の水を入れ、「よっこらしょ」と腰を上げた。
三日ほど野営を繰り返し、ようやく目的地に着く。
(何があるかわからんし、少し多めに採っていくか)
と思い、根っこを傷つけないよう慎重に採取をしていると、急に周りの空気が重たくなってきた。
「ちっ!」
と短く舌打ちをして、素早く道具をしまう。
(大物だな。逃げられるようなら逃げたいが……)
と思い辺りを見回していると、森の奥から「ドドドドドッ!」と音がしてミノタウロスがその巨体を現した。
「なっ!?」
と思うがもう遅い。
ミノタウロスは完全に私の存在を狙ってきたようだ。
ものすごい勢いで真っすぐこちらを目指してきている。
(……おいおい。こりゃマジで死んだか?)
と半分涙目で思うが、
(なんとかするしかないか……)
と苦笑いで剣を抜いた瞬間だった。
「おっさん。どいて!」
という声に驚いて振り向く。
するとそこには黒い大剣を持った少女がこちらに向かってものすごい速さで迫ってきているのが見えた。
私は慌てて飛び退き、その少女を避けると、次の瞬間、
「ブモオォッ!」
と雄叫びを上げ、ミノタウロスが拳を振り下ろしてきた。
「どっせいっ!」
と気合の声らしきものを上げ、少女が大剣を振り下ろす。
そして次の瞬間、私はミノタウロスが一撃で真っ二つになるという衝撃的な瞬間を目撃することになった。
言葉も出せず、ただあんぐりと口を開け、その状況を理解しようと努める。
しかし、常識を逸脱したような状況をすぐに飲み込むことはできなかった。
「おっさん。大丈夫?」
と声を掛けられやっと正気に戻る。
そこには白い耳と尻尾が特徴的な猫獣人の少女が大剣を肩に担ぎ立っていた。
「あ、ああ……。すまん。助かった」
と素直に頭を下げる。
「あはは。いいよ、いいよ。ていうか獲物横取りしちゃってごめんね?」
という少女に私は苦笑いをすると、
「いや。私の手には余る大物だった。助かったよ。ありがとう」
と、また素直に礼を述べた。
「そう? ならいいけど。ていうかおっさんこんなところで何してんの?」
「ああ。リリック草の採取だ。薬師ギルドから依頼があってな」
「へぇ。そんな依頼出てたんだ」
「ああ。人気がないから見向きもされてなかったがな。子供の間で風邪が流行っているらしいぞ」
「ふーん。じゃぁ、おっさんが依頼受けなかったら大変なことになってたかもしれないんだね」
「まぁ、そうかもな」
「あはは。おっさんは真面目な人なんだね!」
「ははは……。それしか取り柄がないからな」
「あはは! 面白い人!」
そんな会話を交わして、とりあえず握手を交わす。
「アタシ、サーニャ。おっさんは?」
「アレンだ」
「そっか。よろしくね。アレン」
「ああ。今回は助かった。ありがとう」
と自己紹介をしたところで、サーニャのお腹が「ぐぅ~」と鳴った。
「あはは……。実はお腹空いてたんだよね。なんか食べ物持ってる?」
「ああ。携帯食があるが、せっかくだからそのミノタウロスでも焼くか?」
「え? アレンって料理ができるの?」
「ああ。わりと得意だな」
「すごい! ねぇ、お願い。お肉焼いて?」
「ああ、いいぞ。助けてもらった礼だ。たっぷり焼くからたんまり食ってくれ」
「やった!」
と大袈裟に喜ぶサーニャに軽く苦笑いを送りつつ、さっそくミノタウロスに近づく。
サーニャが綺麗に真っ二つにしてくれているおかげで肉はどこでも取り放題という状況だった。
(さて。せっかくだし一番いい部位を焼くか)
と考え、一番美味いと言われる背中の部分の肉を取る。
「どんぐらい食う?」
と訊ねるとサーニャは、
「いっぱい!」
と子供みたいな返事を寄こしてきた。
「ははは。わかった。たっぷり焼くから待っててくれ」
と言い、さっそく調理に取り掛かる。
私は荷物の中から大きめのスキレットを取り出すと、そこにミノタウロスの脂を溶かし、いい感じに温まったところで肉を投入した。
「ジューッ!」と良い音がして、辺りに肉の焼けるいい匂いが立ち込める。
するとサーニャが待ちきれないという感じで、肉が焼ける様子を食い入るように見始めた。
「ははは。ちょっと待ってろ。少し肉を休ませなければいかんから、その間にスープでも作ってくれ」
と頼むが、サーニャは悲しそうな顔で首を横に振る。
そんなサーニャに、
「お湯は沸かせるか?」
と聞くと、
「あのねぇ……。さすがにそのくらいは出来るよ」
と言ってお湯を沸かし始めてくれた。
「お湯だけでいいの?」
「ああ。スープの素を持ってきてあるからな」
「何それ?」
「ああ。自作なんだ。スープを作ってそれを煮詰めて粉にしたものなんだが、あるとけっこう便利だぞ?」
「へぇ。なんかすごいね」
「ああ。なにせお湯を入れるだけでスープが出来上がるからな」
「え!? それほんと!?」
「ああ。本当だ。やってみるか?」
「うん。やってみたい!」
というサーニャに自作の顆粒コンソメが入った瓶を渡す。
「その粉をスプーン一杯分だけコップに入れてお湯を注いでくれ。それでスープの完成だ」
と言う私の言葉にうなずきサーニャが緊張したような表情でコップにお湯を注ぐ。
すると、たちまちコンソメのいい香りが辺りに漂った。
「うわぁ……。いい香り。ねぇ、ちょっと飲んでみていい?」
「ああ、いいぞ」
「やった! いただきます!」
そう言ってサーニャがコップに口を付けると、次の瞬間驚きの表情を浮かべ、その表情をそのまま私に向けてきた。
「どうだ?」
と少しドヤ顔で聞いてみる。
「美味い! アレン天才じゃん!」
と言うサーニャの目は子供のそれのようにキラキラと輝いていた。
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