魔女の一族に生まれたけど、叔母達に家族を皆殺しにされて家を燃やされて神器も奪われたから、兄妹で『怪盗』になって奪い返すことにした【第一章完結】
お兄ちゃん!!闇バイトじゃないんだよぉ!!『怪盗』なんだよぉ!!私達はさぁ!!
お兄ちゃん!!闇バイトじゃないんだよぉ!!『怪盗』なんだよぉ!!私達はさぁ!!
──決行前夜。
「いよいよ決行は明日だね。お兄ちゃん」
「ああ」
満月鏡奪還作戦、および怪盗Witch Phantomとしての初陣の前夜、宵と彗はアパートで験担(げんかつ)ぎのトンカツを食べながら、最後の作戦会議をしていた。
「結局クビにはなんなかったし、最後まで潜入調査できてよかったよね」
「ああ、まったくだ」
彗が彩光寺麗子とトラブルとなった日、彗は知らないがヴェルサイユ・ロゼのスタッフ達は彗について口々に話し合っていた。
「麗子さんに、さっき自分の楽屋を掃除していたスタッフをクビにしろと言われたんだがどうしよう。なんか畳に這いつくばって麗子さんの残り香を嗅いでたらしい……」
「シフト的に中村さんですね……」
「わああ!やっぱり問題を起こしやがったか!採用した俺の責任だァ!!」
「尾崎さん落ち着いて。でもクビは酷いですよ」
「そうですよ。中村さん素直でいい子です。体幹も強いですし」
「中村さん、力もあって動きも速いし働き者ですよ。あと体幹も強いし」
「高所作業もなんのそのですからね、どんな体勢でも作業できますからね。彼女、体幹強いんで」
「やっぱり中村さんには残ってもらおう。麗子さんとの接触がないようにだけ今後のシフトを調整しよう」
このようなやり取りの末、スタッフからの信用もあった彗は解雇を免れ、公演の最終日前日を最終出勤日としてヴェルサイユ・ロゼでのアルバイトを終えた。
明日の最終公演当日はアルバイトには入らず、「怪盗」として会場に忍び込む計画だ。
「車も買えたし、準備万端だね」
彗は部屋の窓から、アパートの駐車場に停められている小さな白い軽自動車を見た。
「ああ。当日の計画は頭に入ってるか?彗」
「うん。でももっかい見せて。再確認する」
彗がそう言うと宵は「ああ」とパソコンを起動し、妹の方へと向けた。
「しっかしお兄ちゃん、こんなのよく作ったよねぇ……」
パソコンに映されているのは一つの動画。
立体的に映し出された会場の中に、「彗」「宵」「彩」「ス」「演」と書かれた5種類の丸が動いており、それぞれ彗、宵、彩光寺、スタッフ、演者の動きを示している。
宵は彗が潜入調査で得た情報を全て組み合わせ、当日に誰がどのように動いているかを一目でわかる動画にまとめたのだ。
「まあ、舞台の公演はタイムスケジュールが命だからな。全員が厳密に時間通りに動いてくれるから、作りやすかったぞ」
「ふぅん」
彗は適当に相槌を打つも、これがとてもすごいものだということだけは理解していた。
自分を示している「彗」と書かれた丸は、今日自分がこっそりと鍵を開けておいた窓から会場内に入り、誰にも接触することなく、彩光寺が出る舞台の真上のキャットウォークに潜み、舞台の暗転と共に彩光寺から満月鏡を盗み出している。
「……だが、やはり彗が危険か……俺が潜入した方がいいかもしれない」
「お兄ちゃん、まだそんなこと言ってんの?シスコンも大概にしてよね」
彗は、兄が妹を心配しすぎて「自分がやる」と何度も言い出すことに辟易(へきえき)していた。
「な……別にシスコンとかじゃない。ただ俺はお前にばかり危険なことをやらせるのは……」
「ほら、ここ見てよ。この廊下50メートルぐらいだけど、8秒ぐらいで走り抜けないとスタッフに見つかっちゃうじゃん?」
彗はマウスを操作し、宵が作ってくれた動画の一部を再生した。
彗が言う通り、8秒ほどで抜けないと「彗」と書かれた丸と「ス」と書かれた丸がぶつかってしまう。
「お兄ちゃん、50メートル走のタイム何秒なの?」
「高校の体育の授業で測ったが、15.8秒だったな」
「途中で一回転んだの?そのタイム」
「いや、最後まで転ばずに走ったぞ」
「じゃあなおさら無理じゃん、8秒なんて。私なら50メートルは5.8秒で走れる。あとさ……」
彗はそう言いながら動画を動かし、舞台上のキャットウォークに「彗」と書かれた丸が潜むあたりまで飛ばした。
「ここ、キャットウォークの下に手足の力でぶら下がってなきゃいけないんでしょ。そんなこと運動音痴のお兄ちゃんにできる?体育の成績、お兄ちゃん5段階でいくつだったの?」
「中学のときクラスの中で、俺だけ『0』だったな」
「あれ、『1』より小さくされることあるんだね」
「あと、備考欄に『もっと頑張ろうとする態度を見せましょう』って書かれていた」
「頑張りすら認められなかったんだね」
「俺は一生懸命やってたんだがな」
「まあとにかく!」
彗はバン、と机を叩いた。
「運動音痴、略してうんちのお兄ちゃんには絶対無理!もう諦めて、私の運動神経に全部賭けるしかないんだよ!」
「ぐっ……」
宵は押し黙ってしまった。ぐうの音も出なかったからだ。
「お兄ちゃん言ったじゃん。私の運動能力はアドバンテージだって。今こそ使うときでしょ?お兄ちゃんはこんなにすごい計画を作ってくれたんだから、それで十分!」
「……わかった。彗に、任せるよ……」
彗は「はい、じゃあこの問題は終わりね」と言ってパソコンの画面をパタンと閉じた。
「そんなことよりさ」
彗はそう言って、洗濯物として部屋の中に干してある数枚の衣類を手に取り、床にパシンッ!と投げつけた。
「明日の衣装、何なのこれ!?」
床に叩きつけられたのは、首から足首までを覆う黒い全身タイツ、黒い手袋、黒い目出し帽。
「お兄ちゃん!!闇バイトじゃないんだよぉ!!『怪盗』なんだよぉ!!私達はさぁ!!」
彗は床に叩きつけた三種の黒い布を指差しながら、地団駄を踏んで怒りを爆発させた。
「でもその全身タイツ、ウニクロのエアルズムだぞ。まだ8月なんだから明日も暑いだろうし、涼しくていいと思うが……」
「生地の問題じゃないよっ!!ダサすぎるって話をしてるのっ!!」
彗は三種の黒い生地を拾い上げ、宵の顔に投げつけた。
「舞台の上のキャットウォークの暗闇に潜むんだぞ。限りなく溶け込むために全身黒は必須だろう。それにこの話は何度もしたじゃないか。彗」
「いーや、最終日も粘るよ私は。こんなの全然『怪盗Witch Phantom』じゃない!私が着たいのは……こういうのだよっ!!」
彗は自分の学校のカバンを開き、その中から「数学」と書かれたノートを開き、宵に見せた。
そこには肩や脚が露出した派手なドレスを着て、顔には派手なマスクを付けた女の絵が描かれている。
「お前、数学の授業中に何してるんだ?」
「そんなことはどうでもいいよっ!!それよりこの怪盗の衣装!お兄ちゃん、今すぐ用意してっ!!」
「そんな目立つもの着て泥棒なんかできるわけないだろ!!」
「怪盗は獲物だけじゃなくて、『心』も盗むものでしょ!!」
「そういうのは赤とか緑のジャケットを着たおじさんが率いる3人組の怪盗とか、白いタキシードを着てトランプが出る銃で戦ってハンググライダーで華麗に去っていくイケメンの怪盗に任せとけばいいんだよ!!」
彗のわがままとも言える主張に、宵も声を張り上げて反論した。
「あと金も無いんだよ!!そのドレスがいくらするのか知らんが、俺達が節約して働いて貯めた金は、逃げるための車になったからな!!もう素寒貧(すかんぴん)なんだよ俺達はぁ!!」
「やーだぁー!!こんなダサいの、絶対『怪盗』じゃないいぃ!!!」
「痛い痛い痛い!!腕が、折れる!腕十字固めやめろ!!」
怪盗前夜は、いつも通りの兄妹喧嘩と共に更けていった。
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