010 ”異分子”の苦悩

やけに長く感じた一日が、ようやく終わりを告げる。


普段なら授業中に意識が落ちる瞬間もあるのに、今日は一度も眠れなかった。

机の上でただ時間だけがねばつき、時計の針が進む音さえ遠い。


下校のチャイムが鳴るころには、心も体もどっと重くなる。

帰り道に向かう足は、気付けば校舎の奥へ……コンピュータ室へ向かっていた。


――バグの対処メモ、置いておかないとな。


それだけの用事なのに、理由があるだけで足は勝手にそちらへ向かう。

扉を開けると、パチパチとキーボードの音が空気を震わせた。

星野そらが画面にかじりつくように座っている。


「……星野? 今日、部活の日じゃないよな」


問いかけると、彼はビクッと肩を跳ねさせ、くるっと振り返る。


「あっ、先輩!えーっと……はい、活動日じゃないです。でも、基礎もっと固めたくて……自習、です!」


嬉しそうに胸を張るその姿に、思わず小さく笑ってしまう。


「真面目だな。部室の鍵、返す時は忘れないように」

「もちろんです! あっ、先輩は……?」

「ちょっと、置きに来ただけ」


そう言って、陽介はプリントを机の端にそっと置いた。

星野は興味ありげにそれを一瞬見るが、深くは聞いてこない。


――ほんと、いい後輩だ。


「じゃ、頑張れよ」

「はいっ!」


元気な返事を背に、陽介は部屋を出た。


________________________________________


家に着くと、玄関で靴を脱ぐのも忘れそうなほど疲れが押し寄せてきた。

自室に転がり込み、ベッドの上で膝を抱える。


まぶたを閉じた瞬間、脳裏にざらついた声が聞こえた、気がした。


「つまらない世界だよな。壊してしまった方が、よっぽど綺麗だ」


息が止まりそうになる。


”アイツ”なんか今どこにもいないはずなのに、聞こえた。

耳元で囁かれたように。否、聞こえた気がした。

振り返ってみたが、やはり誰もいない。悪寒がした。


――どうすれば、“面白く”なるんだろう。


あの力をもらった以上、何か変えなきゃいけない。

ただ世界を滅ぶ未来に進むだけじゃ駄目だ。

目の前の現実を、”面白く”していかないといけない。


そのために自分は、何をどう動けばいい?


陽介は、息を潜めるように目を閉じた。

日没とともに、重い思考が静かに胸の奥へ沈んでいく。

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