ep.16 襲撃③


 敵の男は身体の上に乗ったまま、仲間の一人の姿が見えなくなるのを確認し、楓の腕に握りしめている神器グレイドを奪い取るとゆっくりと話始めた。


 「なぁ、正直に言うと俺達の目的はお前と神器だ」


 「うるせぇ」


 敵の話など聞くつもりは微塵もない。今すぐ拘束を解いて止めに向かわなくては。必死に身体をひねり続ける。


 「まぁ、聞けよ。大人しくついてくるならあの女とお友達は見逃してやる。どうだ?」


 「…」


 今の無力でしかない自分に出来ることはない。だからこそこの提案は状況を打開する魅力的なものに感じられる。


 「本当か?」


 「あぁ。俺も荒事は嫌いでな。ちゃんと約束しよう」


 (こいつら何故俺を狙っているんだ?いや、そんな事考えてる場合じゃない。今の俺に出来ることは…)


 要求を飲もうと決意し、口を開こうと決心した瞬間、身体にのしかかる重さが無くなった。


 「なに敵と仲良く話してんの?」


 「カリサ!」


 上から拘束していた男は吹き飛ばされ、オーガと戦闘していた方へ目をやると、体勢を崩していたり、脚を欠損している者の姿が見えた。どうやらわずかな隙を作りこちらに援護しに来たようだ。


 しかし、カリサもかなりの外傷を負っているようで肩で息をしている。素人目にも体力の限界が近いのが見てわかった。


 「奴らの狙いは俺だ。お前は逃げろ」


 「あんたね。敵の戯言を信じるとかバカなの?」


 「それしかねぇだろ!?」


 「この状況で、こっちの都合のいい交渉するメリットなんてあるわけないでしょ!」


 正論をぶつけられて楓は黙り込んでしまう。味方同士で言い合う光景が面白かったのか敵の男は堪らず笑い出した。


 「その女は賢いな。しかもオーガを三体も倒したのか。下っ端とはいえ、流石はロイヤルの人間。ちゃんとしているな」


 「残りの二体倒したら次はアンタね」


 「女。今さらだがお前の名前を聞いておこう」


 「ヴィクトリアの奴らに名乗る名前なんてあると思う?」


 「…まぁいい。俺はゴウラって言うんだ。殺される相手の名前くらい知っておきたいだろう?」


 敵の男はゴウラという名前らしい。ずっとこちらを見下したような、馬鹿にした態度を取り続けている。安易な挑発だとわかっていても感情が抑えられない。


 「あいつ…!」


 「そのガキの神器も奪えたし、本当は帰ってもいいんだけどな」


 再び頭に血が昇り出し、無謀だとわかっていながらも楓は敵に向かい走り出そうとした。しかし


 「離せ!」


 情けなくも二歩目すら進むことなく、カリサに腕を捕まれその動きは制止される。


 「聞いて。数も減らしたし、今なら逃げれるわ」


 「…お前」


 最初は振りほどこうとしたが、彼女の方をよく見ると自分を掴んでいる腕とは反対の…左腕が力なく垂れ下がっている事に気づいた。他にもかなりの深傷を負っている。


 「私は大丈夫。もう行って」


 親友の事しか考えられていなかった。それに比べ目の前で自分を気遣ってくれているカリサの事は…


 (俺は今まで何をしていたんだ…)


 自責の念で押しつぶされそうになる気持ちを抑え、ある決意を固めた。


 「早く行って!」


 「いや、俺も戦うことにしたから」


 カリサから預かっていた神器を拳にはめ始めた。勿論、起動など出来る筈はないが。


 「何やってんの!?」


 「無いよりマシだろ。普通のメリケンとして使う」


 「ふざけてる状況じゃないから!」


 既に再生が終わったオーガがこちらへ向かって来ようとしていた。しかしゴウラが止まるよう指示を出し二体の動きは制止した。


 「流石に飽きてきたな」


 ゴウラはスーツの懐から何かを取り出し飲み込んだ。数秒の後、筋肉が膨れ上がり、肌は青白く変色しだした。二足で立っているが人間の原形を留めていない。


 ゴウラが変化を終え、ゆっくりとこちらへ向かい歩き出した。オーガ程ではないといえ身体も肥大化し、凄まじい圧を放っている。


 「たかがオーガどもに苦戦する奴が俺に勝てると思うか?」


 知識や経験が無くてもわかる。こんな奴には勝てる筈が無いと。


 「うそ…あれは邪徒!?早く逃げて!」


 「俺はな…目の前に困っている人がいたら放って置けない性格なんだ」


 「はぁ?冗談言ってる場合じゃないでしょ!」


 勿論楓には状況がよくわかっていない。邪徒がなんなのかも。今理解出来ているのは自分の弱さだけだ。


 「ここからは俺がお前を助ける」


 「あんた何言って…」


 自分より明らかに弱い人間から助けると言われても…と可哀想な者を見るような目でこちらを伺っている。しかし-


 「そもそも俺がこんな性格じゃなかったら、見知らぬお前を何日も家に泊まらせねぇだろ」



 楓の右手から光が溢れ出した。


 

 カリサとゴウラは見たこともない力の波動を前に驚愕の声を上げた。それが自分達が調査しに来た反応の正体だとはこの時気付くこともなく。


 やがて光が収まり、少年は何やらキョロキョロと辺りを見渡し始めた。そして目の前のゴウラを視界に捉え、不思議そうな顔をした。



 「ここ何処?つーかなんで魔族が存在してんだよ?」






 「ミア様、またあの少年が力を…」


 その頃、街外れの森で戦闘が起こっている事を察知していたグレア一行は車で現場へと向かっていた。


 「止めてくれ」


 指示を受け、途中の道に車を止める。


 グレアが運転席から後部座席へ振り向くと、ミアがドアを開けるよう手で訴えていた。


 「私はここでいい」


 「何を言いますか!?」


 「いいんだ。もう一人の方は任せる」


 目的はわからないが、敵の一人は戦場を離れ、街の外へ出ようと行動している事は確認していた。つまり二手に分かれようという意味なのだろう。


 「本当によろしいのですか?」


 「あぁ。あの少年には恩があるからな」


 「しかし…!」


 「グレア。無理だけはしないでくれ」


 説得する事を諦め、車を降り歩き出す主ミアをグレアは見送った。それにしても-




 (たい焼きの包みは持っていかなくても…)

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