ep.15 襲撃②


 目の前に現れた五体のオーガ達は今にも襲いかかって来そうな殺気を身に纏っている。しかし一向に動き出す気配はない。恐らく攻撃の指示を待っているのだろう。


 (いくらなんでもあの数は無理だろ…俺も)


 楓がバッグから神器を取り出そうとすると、いつの間に移動してきたのか、カリサがオーガ達との間に入るような形で正面に立っていた。こちらの方に背を向け敵を牽制するよう構えている。


 「悪いけど先に逃げてくれない?」


 「はぁ?この状況で置いていけるわけないだろ!」


 「私一人なら逃げられる。カエデが安全なところまで撤退したら後を追うわ」


 「おいっ!」


 躊躇してる楓を他所に目の前で激しい轟音が鳴り響いた。距離があってもこちらまで衝撃が伝わってくる。ついに戦闘が始まったのだ。


 (あの時の高速移動か!って考えてる場合じゃない)


 このレベルの戦いでは足手まといにしかならないと流石の楓も理解し反対の森の奥へと走り始める。


 「は?」


 だが既に一体のオーガが目前へと迫っていた。その拳は今にもこちらへ振り下ろされようとしている。一般人など認識もできぬ間にあの世送りにされている筈だが、まるで時が止まったようにはっきりとその姿を視認できた。


 「しまっ」


 目の前で衝撃波が巻き起こる。


 「チッ。やっぱり五体同時の足止めは無理ね」


 「あ、あぁ、ありがとう」


 間一髪、カリサがオーガの拳を止めていた。あれだけの敵を掻い潜りこちらをカバーしにくるのは流石といったところだろうか。等と考える暇もなく、すぐさま楓を抱え敵と距離を取るように後ろへ飛び退いた。


 「女。もう諦めろ。事前にお前の力量はちゃんと把握してからここに来ている。そのガキとお前の神器さえ渡してくれたら見逃してやってもいい」


 「…私の力を把握してるですって?」


 敵の言葉に何か思うことがあったのか、カリサの表情がさらに険しいものへと変化した。


 「カエデ」


 「はい!」


 ただならぬ雰囲気に圧倒され、背筋を伸ばし威勢よく答えた。そんな楓を余所にカリサは拳にはめていた神器を外す。


 「これ、預かってて」


 「いや、神器無しでどうやって戦うの?」


 拳にはめていたメリケンサックのような形の神器を楓に手渡すと、上着の内ポケットから2本のナイフのような物を取り出した。


 「こっちが私専用の神器【ベガルタ】。使用許可が必要だけど、あの身の程知らず達を教育しなくちゃ」


 カリサがベガルタの片方を振り下ろすと可視化された風の斬撃が前方へと飛び出し、目の前のオーガの胸が切り裂かれそこから多量の血が噴き出した。


 「ほう。二つも神器を。しかもそれは純正だな」


 「ヒヒッ。流石にロイヤルの奴は恵まれてんなぁ」


 これからが彼女カリサの本領発揮と言ったところなのだろうが、それでもあの男達は余裕な態度を崩さない。


 「まず一体」


 カリサが正面のオーガに斬りかかるとあっさりとその片腕を斬り飛ばし、化物オーガの絶叫が森の中へ響き渡る。そのまま二撃目を入れようとしたが、他のオーガ達が彼女へ襲いかかりトドメまではいかなかった。


 「チッ。でも今のでわかった。何故かは知らないけど、このオーガ達は身体能力だけのハリボテね」


「もう気付くとは流石だな。だが能力無しとはいえ、回復力に長けたオーガ五体相手は厳しいぞ」


 男が説明している間にも、腕を切り飛ばされたオーガの腕が既に再生を始めていた。


 「あら?こいつら相手にベガルタを出した私が苦戦するとでも?」


 楓も戦闘に備えてバッグからグレイドを取り出した。まさかこんな状況になると予想はしていなかったが、持ってきて正解だった。


 「ヒッ!ようやく出したか」


 巨漢の男が変なことを言い出した。まるで元から神器を持っているのを知っていたかのように。


 「なんで…これを知ってるんだ?」


 「あの森での戦闘は監視してたからな」


 その言葉を聞いた途端、頭の中が高速で回りだしある答えにたどり着く。


 「もしかして瞬を襲ったあのオーガも…」


 「ウリト。余計な事は言うな」


 「ヒッ!すみません」


 オーガ達を使役しているのを見た時から思うところはあった。それが今核心に変わった。親友が脚を失う原因を作ったのは-


 「てめぇらだけは許さねぇ」


 かつて無いほどの怒りが込み上げ、身体が熱くなり震えが止まらない。先程までの恐怖や絶望が嘘のように消え去っていく。気がつくと男達に向かって走り出していた。


 「ヒヒッ!神器の起動もまともに出来ないのか?」


 「くそっ」


 いとも簡単に攻撃を片腕で止められ、突き飛ばされた。どうやら邪種を使役しているこいつらもある程度の実力はあるらしい。


 「許さねぇ!てめぇらのせいで瞬が!」


 そんな楓の叫びを楽しむかのように細身の方の男が笑い出した。


 「はは。面白い。ウリト」


 「はい!」


 「ここはもう俺一人でいい。お前は今から脚を失ったガキの方を殺しに行け。場所はちゃんと分かるな?」


 「ヒヒッ。それはいいですね」


 「は?」


 こいつらは何を言っているんだ


 「なんで…」


 「お前の必死さが面白くてな」


 「ふざけんな!行くなら俺を殺してからにしろ!」


 「嫌だね。どうせこの街での調査が終わり次第ちゃんと殺す予定だった」


 何故、グレイドは起動しない


 「ふざけんな!」


 止めるために走り出す。しかし-


 「おっと、」


 「ぐっ」


 神器も使えないただの一般人などいとも簡単に地面に組み伏せられてしまう。情けなくもカリサに助けを求めるよう視線を向けたが、オーガ達の相手でこちらに来る余裕はない。


 「ヒッ。じゃあ行ってきます」


 「あぁ。終わったらちゃんと連絡しろよ」


 このままでは親友が危ない。なのに-


 「なんで起動しないんだよ!」




 握りしめているグレイドは起動しない。悲痛の叫びも虚しく、楽しそうに去っていく巨漢の男の後ろ姿を、ただ見ている事しか出来なかった。

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