Ep.11 君見ゆと我がこころねは ―― *Ayame
「それで、相談って何なの?」
「ねーちゃんは高校ってどうやって決めた?」
「大学を目指せるくらい偏差値の高いところで、できれば近いところ。でも、同じ中学の人が行かなそうなところ」
「うん、まあ、そうだろうと思った」
「部活続けるつもりなら、あまり遠くないところがいいんじゃないの? あとは、男だし大学に行くつもりでいた方が良いと思うけど」
将来家庭を持って稼いでいかなくちゃいけないことを考えると、堅実に大学を卒業して就職するのが良さそうに思う。それが彼の気質に合っているかはともかくとして、大学に行きたいと思った時に目指せるようにはしておいた方が良いように思う。
「そのさ、ねーちゃんが言う大学を目指せるくらいのっていうのはどういうこと? とりあえず高校出れば大学行けるんじゃないの?」
「まあ、原理的にはそうだよ。だけど実際問題、学校の授業で習う科目とか内容で大学受験できるかって言ったら、そうじゃない高校もある。それが進学校とそうじゃないところの違いだよ。公立でも高校によってはさ、卒業した後大学に行ってほしいところと、専門学校とかに行ってほしいところと、就職してほしいところと、とりあえず卒業してくれればってところがあったりするわけ。そうなると、学校での教え方とかも変わってくるでしょ?」
「なるほど……」
「進学校じゃないところで大学を目指すのは、結構大変だよ?」
実際わたしは、学校の授業だけでほとんど賄えてしまっている。授業の中で応用的な問題も取り扱うから、その成果は全国模試でも遺憾なく発揮されていた。
「同じくらいの偏差値のところもあるじゃん? その辺はどうやって決めんの?」
「学校見学に行ってみたらいいんじゃない? そうしたら、その学校の雰囲気とかわかると思うよ」
「学校見学か……。一人で高校に行くのはちょっとな……」
何故一人で行く前提なのだろうと思って尋ねてみる。
「友達と行けばいいじゃん。わたしと違って、レオは友達いるでしょ?」
「友達とはそういうマジっぽい雰囲気
意外と繊細なようだ。友達の前だと見栄を張ってしまって、本当は行きたかったところを逃してしまうかもしれないと思っているのだろう。逆に、それほど心を許している友達は、玲応にもいないのだとわかって少し寂しくなった。
「じゃあ、わたしが一緒に行ってあげようか?」
「マジで? 一緒に行ってくれんの?」
わたしと行くのはいいのか。それはそれで恥ずかしかったりしないのだろうか。でもお母さんは一緒に行ってくれないだろうし、保護者という意味では付き添っても何もおかしくはないか。
「行くのはいいけど……日程とか場所とか、ちゃんと自分で調べてね。あと、前日とか当日に急に行くとか言われても困るからね」
困るだけで行ってくれるのかと言われれば、恐らく行くだろう。これだからわたしはチョロいと思われるんだろうな。
「はいはい、わかってまーす」
絶対わかっていない返事だ。
すると、珍しくスマホにメッセージの受信を知らせる振動があり、ふと画面に視線を向ける。
〈もしかして今、ファミレスにいる?〉
その端的なメッセージは、すべてを察せて余りあるものだった。どうしてそんな具体的過ぎる疑問を持ったのか。そしてそれをわたしに確認するのか。その答えは一つしかない。――詩遠さんも、ここにいる。
〈います、けど……〉
〈もしかして……後ろの席かな?〉
そのメッセージに驚いて、はっと振り返る。後ろには高い背もたれの上に擦りガラスで仕切られていて見えない。立ち上がれば見えるだろうけれど、わざわざ覗き込んで違ったら迷惑になってしまうし、恥ずかしい思いもする。
そう思っていたら、向かいに現れた、スタイルの良いお姉さん。見紛うはずがない。詩遠さんだ。
「やっぱり
詩遠さんが玲応の座る椅子の背に手を置いて、見下ろすように覗き込む。玲応は突然の出来事についていけていないようだ。
いや、それよりも……もしかしてさっきまでの話、聞かれてた……? それに、弟と居る時のわたしを見られてしまったのは、どうにも気恥ずかしい。そうしてテンパっていると、玲応が気を利かせて話を進めてくれた。
「お姉さん、ねーちゃんの友達ですか? オレは玲応といいます。こんな姉ですが、仲良くしてやってください」
「あはは、あたしの方こそ、ねーちゃんと仲良くさせてもらってるよ。あたしは詩遠。良いねーちゃんだと思うけど、違うの?」
「良いねーちゃんではありますけど、性格に難ありなんで」
確かに、と詩遠さんにも笑われてしまう。どうやら二人は気が合うようだ。わたしなど蚊帳の外で盛り上がっている。
「あ、えっと……詩遠さん。……話、聞こえてました?」
「まあ、うん。姉想いの優しい弟と、弟想いの優しいお姉ちゃんだなぁと思って微笑ましく聞いてたんだけど、なーんか聞き覚えがある気がして。いつもよりはきはき喋ってるけど、もしかして彪雨ちゃんじゃない? と思ったんだ」
別に詩遠さんの前では猫を被っていたわけではない。だけれど、いつもよりは少しお上品に振る舞ってはいた。よそ行きの顔で接していた。そんな彼女に、家での顔を見せてしまったのが、どうしようもなく恥ずかしい。まるで裸を見られたみたいな――ああでも、裸はもう見られていたんだったか。
「最初さ、彪雨ちゃんと一緒に居るの彼氏かと思ったから、弟くんっぽいなと思ってホッとしたよ。いや、でも姉弟プレイさせてる可能性もワンチャンあるかぁと思って――」
「ないです。そんなことしないですから」
わたしは何だと思われているのだろうか。だけれどまた、詩遠さんの冗談に救われた。焦ってしまっているわたしをいつもの調子に戻すために、わざわざ冗談を言ってくれたのだろう。
「……わたし、ちょっとお手洗いに行ってきます」
「うん、落ち着いたら戻っておいで」
詩遠さんは、やっぱりお見通しか。
いつもの調子に戻ったといっても、わたしの心の整理がついたわけではない。わたしの知られたくなかったことを、知られてしまった。詩遠さんは努めていつも通りに接してくれるけれど、何も思うことがないわけはない。
聞かなかったことにしてくれ、と言うことはできる。そう言えば、きっと詩遠さんはそれ以上触れないだろう。だけれどこの際、詩遠さんに話してしまっても良いのではないか。そんなことも思っている。
わたしは、どうしたら良いのだろう。
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